説明

発現ベクター

従来の発現ベクターは、大腸菌由来のプラスミドと形質転換菌由来のプラスミドとを融合した、大腸菌と形質転換菌との双方で機能するシャトルベクターであり、大腸菌以外の形質転換菌のみで機能する発現ベクターは知られていなかった。本発明は、大腸菌以外の形質転換菌のみで複製され、当該形質転換菌以外の菌では複製されない発現ベクター、該発現ベクターで形質転換された嫌気性微生物からなる遺伝子輸送担体等を提供することにある。
本発明の発現ベクターは、嫌気性菌で機能するプラスミドベクターであって、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない発現ベクターである。より具体的には、(1)大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAならびに嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片からなる蛋白質発現ユニットを含む発現ベクターである。これにより、形質転換遺伝子が、形質転換菌以外の病原性または好気性菌等で複製されるおそれがない、極めて安全なベクターおよび遺伝子輸送担体を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気的疾患治療用遺伝子輸送担体として有用な形質転換嫌気性微生物の作製に用いられる発現ベクター及びその作製方法に関する。また、本発明は、該発現ベクターで形質転換された嫌気性微生物を含む遺伝子輸送担体、該遺伝子輸送担体を含有する医薬組成物、及び該遺伝子輸送担体を含有する嫌気的疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学分野において、微生物を形質転換するために用いる発現ベクターとしては、ファージ、動植物ウィルス、プラスミドなどが広く用いられている。そして、形質転換して遺伝子産物の目的蛋白質を発現させる形質転換微生物として、大腸菌や酵母などが広く用いられている。これらの形質転換微生物は、目的蛋白質を発現させるためのものであり、微生物そのものを利用するものではない。
【0003】
近年、形質転換した微生物そのものを利用する方法に関して、悪性腫瘍の治療方法において、形質転換嫌気性菌を遺伝子輸送担体として用いる方法が注目され、例えば、形質転換したクロストリジウムを用いた腫瘍部位への遺伝子輸送方法が提案されており(例えば、特許文献1〜3参照)、さらに、形質転換したビフィドバクテリウム・ロンガムについて、固形腫瘍に対する治療への応用が示唆されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
また、固形腫瘍治療用の遺伝子輸送担体として有用な形質転換ビフィズス菌に関して、シトシン・デアミナーゼ(以下、CDという)を発現するように形質転換したビフィドバクテリウム・ロンガムが、酵素−プロドラッグ療法への応用に期待できることが報告されている(例えば、特許文献4及び非特許文献3、4参照)。CDは、抗腫瘍活性を有する5−フルオロウラシル(以下、5−FUという)のプロドラッグ(前駆体)である5−フルオロシトシン(以下、5−FCという)を5−FUに変換する酵素である。
【0005】
このような形質転換菌の作製には発現ベクターが必要である。しかし、従来から遺伝子工学分野において大腸菌の形質転換に用いられている大腸菌由来のプラスミドベクターは、当然大腸菌以外の菌では複製されないことから、当該形質転換菌の作製においては、当該形質転換菌で複製されるようなプラスミドベクターに改変することが必要となる。
【0006】
上記文献には、このような、悪性腫瘍治療用形質転換菌の作製に用いられる発現ベクターについても報告されており、特許文献1〜3には、大腸菌とクロストリジウムで相互複製されるシャトルプラスミドpNTR500FやpCD540FT等が報告されている。
また、特許文献4には、大腸菌とビフィドバクテリウムで相互複製されるシャトルプラスミドpBLES100−S−eCD、および該シャトルプラスミドの構築に用いられたシャトルプラスミドpBLES100が報告されている。
【0007】
その外にも、前記シャトルプラスミドpBLES100−S−eCDと比較して100倍を超える高効率で、ビフィドバクテリウム・ロンガムを形質転換しうるシャトルプラスミドpAV001−HU−eCDが報告されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
さらに、当該シャトルプラスミドpAV001に組み込まれた目的遺伝子のDNAを一部変異化した、シャトルプラスミドpAV001−HU−eCDのプラスミド一塩基変異体のシャトルプラスミドpAV001−HU−eCD−M968が報告されている(例えば、特許文献6参照)。
【0009】
その外にも、例えば、大腸菌とビフィドバクテリウムで相互複製されるシャトルプラスミドpDG7、大腸菌とクロストリジウムで相互複製されるシャトルプラスミドpEBM3およびpECM2、大腸菌とラクトバチルスで相互複製されるシャトルプラスミドpLP825等が報告されている。(例えば、非特許文献5参照)。
【0010】
以上のように、大腸菌以外の形質転換菌の作製に用いられる種々のプラスミドベクターが報告されているが、いずれも大腸菌と大腸菌以外の形質転換菌とで相互複製されるシャトルベクターであり、大腸菌以外の形質転換菌のみで複製されるプラスミドベクターについては未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6416754号公報
【特許文献2】米国特許第6652849号公報
【特許文献3】米国特許公開2003/0103952号公報
【特許文献4】特開2002−97144号公報
【特許文献5】国際公開 WO 2006−57289号公報
【特許文献6】国際公開 WO 2007−136107号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Yazawa et al. Cancer Gene Ther., 7, 269-274 (2000)
【非特許文献2】Yazawa et al. Breast Cancer Res. Treat., 66, 165-170 (2001)
【非特許文献3】Nakamura et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 66, 2362-2366 (2002)
【非特許文献4】Fujimori et al., Curr. Opin. Drug Discov. Devel., 5, 200-203 (2002)
【非特許文献5】Alessandra Argnani et al., Microbiology. ;142: 109-114 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
形質転換遺伝子輸送担体を用いる、固形腫瘍や虚血性疾患等の嫌気的環境下にある疾患(以下、嫌気的疾患という)の治療方法においては、用いる遺伝子輸送担体が非病原性で、且つ、嫌気的状態にある疾患組織等だけにおいて生着、増殖し、嫌気的状態ではない正常な組織では生着、増殖しない偏性嫌気性菌であることが求められる。
さらに、用いる遺伝子輸送担体の形質転換遺伝子が、当該遺伝子輸送担体以外の、病原性菌または好気性若しくは通性嫌気性菌に水平伝達しないこと、さらに、例え水平伝達したとしても、その菌で複製されないことも極めて重要である。そのために、当該形質転換遺伝子輸送担体の作製に用いられる発現ベクターは、当該形質転換菌だけで複製され、当該形質転換菌以外の菌、特に、病原性または好気性若しくは通性嫌気性の菌では複製されないものが望ましい。
【0014】
これまでに報告されている発現ベクターは、殆どが形質転換菌と当該形質転換菌以外の菌、例えば大腸菌とで相互複製するシャトルベクターであり、大腸菌以外の形質転換菌だけで複製される発現ベクターではない。
本発明の課題は、大腸菌以外の形質転換菌のみで複製され、当該形質転換菌以外の菌、特に、病原性または好気性若しくは通性嫌気性の菌、例えば大腸菌では複製されない発現ベクターを提供することにある。
また、本発明の他の課題は、該発現ベクターで形質転換された嫌気性微生物を含む遺伝子輸送担体、該遺伝子輸送担体を含有する医薬組成物、及び該形質転換菌を含有する嫌気的疾患治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、先に、目的遺伝子として、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質の中のCDを発現する遺伝子を選択し、当該目的遺伝子を組みこむプラスミドベクターとして、当該CDを発現する遺伝子を保有している大腸菌のプラスミドとビフィドバクテリウム・ロンガム由来のプラスミドとを融合したシャトルプラスミドpBLES100−S−eCDを作製し、これを用いてビフィドバクテリウム・ロンガム105Aを組換えた、ビフィドバクテリウム・ロンガム105A/pBLES100−S−eCDが悪性腫瘍の治療に有用な遺伝子輸送担体として期待できることを見出し、報告した(特許文献4)。
【0016】
本発明者らは、さらに、上記融合プラスミドに改良を加えるべく、組み込まれた目的遺伝子のDNAを一部変異化させて、プラスミドpAV001−HU−eCDのプラスミド一塩基変異体のプラスミドpAV001−HU−eCD−M968を作製し、これを用いてビフィドバクテリウム・ロンガム105Aを組換えた、ビフィドバクテリウム・ロンガム105A/pAV001−HU−eCD−M968及びその作製方法を報告した(特許文献6)。
これらのプラスミドは何れも、ビフィドバクテリウムと大腸菌とで相互複製されるシャトルプラスミドであることから、何らかの要因により大腸菌へ水平伝達を起こした場合には、当該大腸菌で複製されるものであった。
【0017】
そこで、本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、上記プラスミドpAV001−HU−eCD−M968から、大腸菌の複製開始点を含む断片のpUC oriを取り除いたプラスミドpBifiCDを作製し、本プラスミドを用いて、大腸菌JM109のコンピテントセル(タカラバイオ株式会社)を、熱ショック法により形質転換を行ったところ、本願発明のプラスミドpBifiCDによって大腸菌が形質転換されず、水平伝達のおそれがない事が確認された。
【0018】
そして、本プラスミドで形質転換した菌、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム105Aを組換えた、ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A/pBifiCD(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(NPMD、〒292−0818千葉県木更津市上総鎌足2−5−8)受託番号:NITE BP−491)は、良好なCD発現作用を示し、該CDによって抗腫瘍物質の5−FUに変換されるプロドラッグの5−FCを併用する事により、極めて顕著な腫瘍増殖抑制効果を発揮し、極めて優れた固形腫瘍治療剤として期待できるものである。
しかも、驚くべき事に、プラスミド保持安定性が高く、さらに、大腸菌の複製開始点を含まないことから、万一、大腸菌への水平伝達を起こしたとしても、大腸菌で複製される可能性がなく、極めて安全で、且つ、高品質の遺伝子輸送担体として期待できることを見出し、本発明を成した。
【0019】
すなわち本発明は、
[1]嫌気性微生物で機能するプラスミドベクターであって、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない発現ベクター、
[2]嫌気性微生物が、大腸菌以外の腸内細菌である[1]記載の発現ベクター、
[3]大腸菌以外の腸内細菌が、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選ばれる一種である[2]記載の発現ベクター、
【0020】
[4](1)大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAならびに嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットを含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の発現ベクター、
[5]大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットが、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選ばれる1種で機能するプラスミド複製ユニットである、[4]記載の発現ベクター、
【0021】
[6]大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットが、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプラスミド複製ユニットである、[5]記載の発現ベクター、
[7]ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプラスミド複製ユニットが、OriV領域およびRepB遺伝子を含むpTB6 repユニットである、[6]記載の発現ベクター、
[8]OriV領域およびRepB遺伝子を含むpTB6 repユニットをコードする遺伝子が、配列番号4の1796番目から3391番目の塩基配列で示されるDNAまたはその一塩基変異多形である、[7]記載の発現ベクター、
【0022】
[9]嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターが、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選ばれる1種で機能するプロモーターおよびターミネーターである、[4]〜[8]のいずれかに記載の発現ベクター、
[10]嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターが、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプロモーターおよびターミネーターである、[9]記載の発現ベクター、
【0023】
[11]ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプロモーターおよびターミネーターが、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーターおよびターミネーターである、[10]記載の発現ベクター、
[12]ビフィドバクテリウム属細菌で機能するヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーターおよびターミネーターが、ビフィドバクテリウム属細菌由来のヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーターおよびターミネーターである、[11]記載の発現ベクター、
【0024】
[13]ヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーターおよびターミネーターをコードする遺伝子が、配列番号4の7番目から367番目および1676番目から1789番目の塩基配列で示されるDNA又はその一塩基変異多形である、[12]記載の発現ベクター、
[14]目的とする活性を有する蛋白質が、嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質である、[4]〜[13]記載の発現ベクター、
[15]嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質、または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、[14]記載の発現ベクター、
【0025】
[16]嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、[15]記載の発現ベクター、
[17]抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼ、ニトロリダクターゼおよびβ−グルクロニダーゼからなる群より選ばれる一種である、[16]記載の発現ベクター、
[18]抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼである、[17]記載の発現ベクター、
【0026】
[19]シトシン・デアミナーゼをコードする遺伝子が、配列番号4の395番目から1675番目の塩基配列で示されるDNAまたはその一塩基変異多形である、[18]記載の発現ベクター、
[20]さらに、(3)選択マーカー活性遺伝子ユニットを含み、選択マーカー活性が、薬剤耐性、栄養要求性および培地選択性からなる群より選ばれる1種である、[4]〜[19]のいずれかに記載の発現ベクター、
[21]選択マーカー活性が、スペクチノマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、ネオマイシン耐性およびカナマイシン耐性からなる群より選ばれる1種の薬剤耐性である、[20]に記載の発現ベクター、[22]選択マーカー活性が、スペクチノマイシン耐性である、[21]記載の発現ベクター、
【0027】
[23]選択マーカー活性を発揮する蛋白質をコードするDNAが、スペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼをコードするDNAである、[22]記載の発現ベクター、
[24]スペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼをコードするDNAとそのプロモーター配列とを含むDNAが、配列番号4の3398番目から4476番目の塩基配列で示されるDNA又はその一塩基変異多形である、[23]記載の発現ベクター、および、
[25]配列番号4の塩基配列で示されるDNA配列を含む、[24]記載の発現ベクター(pBifiCD)に関する。
【0028】
また本発明は、
[26](1)大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAならびに嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットを含む、大腸菌と大腸菌以外の宿主菌で相互複製されるシャトルプラスミドを作製し、該シャトルプラスミドから、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去することを特徴とする、発現ベクターの作製方法に関する。
【0029】
さらに本発明は、
[27][1]〜[25]のいずれかに記載の発現ベクターで形質転換された嫌気性微生物を含む遺伝子輸送担体、
[28]嫌気性微生物が、大腸菌以外の腸内細菌である、[27]記載の遺伝子輸送担体、
[29]大腸菌以外の腸内細菌が、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選ばれる1種である、[28]記載の遺伝子輸送担体、
[30]大腸菌以外の腸内細菌が、ビフィドバクテリウム属細菌である、[29]記載の遺伝子輸送担体、
【0030】
[31]ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、およびビフィドバクテリウム・ロンガムからなる群より選ばれる1種である、[30]記載の遺伝子輸送担体、
[32]ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムである、[31]記載の遺伝子輸送担体、
【0031】
[33]嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、かつ、嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質を発現することができる、[27]〜[32]のいずれかに記載の遺伝子輸送担体、
[34]嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、かつ、嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質、または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、[33]記載の遺伝子輸送担体、
[35]嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、かつ、嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、[34]記載の遺伝子輸送担体、
【0032】
[36]抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼ、ニトロリダクターゼおよびβ−グルクロニダーゼからなる群から選ばれる一種である、[35]に記載の遺伝子輸送担体、
[37]抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼである、[36]に記載の遺伝子輸送担体、
および、
[38]遺伝子輸送担体が、ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A/pBifiCD(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(NPMD)受託番号:NITE BP−491)である、[37]に記載の遺伝子輸送担体に関する。
【0033】
さらに本発明は、
[39][27]〜[38]のいずれかに記載の遺伝子輸送担体を含有する医薬組成物、
[40][34]〜[38]のいずれかに記載の遺伝子輸送担体と、該遺伝子輸送担体が発現することができる、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質によって抗腫瘍物質に変換される抗腫瘍物質前駆体とを組み合わせてなる医薬組成物、および、
[41]抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼであり、抗腫瘍物質前駆体が5−フルオロシトシンである、[40]に記載の医薬組成物に関する。
【0034】
さらにまた本発明は、
[42]有効治療量の抗腫瘍活性を有する蛋白質を発現するに十分な量の、[34]〜[38]のいずれかに記載の遺伝子輸送担体を含有する固形腫瘍治療剤、
[43]抗腫瘍物質前駆体から有効治療量の抗腫瘍物質に変換できる量の抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現するに十分な量の、[34]〜[38]のいずれかに記載の遺伝子輸送担体と、該遺伝子輸送担体が発現することができる前記蛋白質によって変換され、かつ、有効治療量の抗腫瘍物質に変換できる量の抗腫瘍物質前駆体とを組み合わせてなる、固形腫瘍治療剤、および、
[44]抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質がシトシン・デアミナーゼであり、抗腫瘍物質前駆体が5−フルオロシトシンである、[43]に記載の固形腫瘍治療剤に関する。
【0035】
なお、本願明細書においては、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質をコードするDNA、や(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質をコードするDNAを、以下、「目的蛋白質をコードするDNA」という場合もある。
【発明の効果】
【0036】
本発明の発現ベクターは、形質転換菌以外の菌、特に、大腸菌で機能する複製開始点を含まず、当該形質転換菌以外の菌、特に、病原性または好気性若しくは通性嫌気性の菌、例えば大腸菌で複製されるおそれがない、極めて安全なベクターである。
そして、本発明の発現ベクターを用いて形質転換した遺伝子輸送担体は、プラスミド保持安定性が高く、しかも上記のとおり、形質転換菌以外の菌、特に、病原性または好気性若しくは通性嫌気性の菌、例えば、大腸菌への水平伝達を起こしたとしても、当該菌で複製されるおそれがない。従って、極めて安全で、高品質の遺伝子輸送担体として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】選択マーカープラスミド(pSPCM−pUCori)の構築工程(工程1)を示す図である。
【図2】選択マーカー・活性蛋白質プラスミド(pHU−eCDm−SPCM−pUCori)の構築工程(工程2)を示す図である。
【図3】シャトルプラスミド(pCDshuttle)の構築工程(工程3)を示す図である。
【図4】プラスミド「pBifiCD」の構築工程(工程4)を示す図である。
【図5】B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株の抗腫瘍効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の発現ベクターは、嫌気性菌、特に、大腸菌以外の腸内細菌、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、クロストリジウム属細菌等で機能するプラスミドベクターであって、当該形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを具有しない発現ベクターである。
より具体的には、例えば、(1)大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAならびに嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットと、(3)選択マーカー活性遺伝子ユニットからなり、且つ、当該形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない発現ベクターである。
【0039】
これまでに報告されているプラスミドベクターは、殆どが遺伝子導入技術情報の豊富さや導入の確実さなどから、大腸菌由来のプラスミドと形質転換菌由来のプラスミドを融合したものである。そして、大腸菌と形質転換菌との双方で機能するシャトルベクターであり、大腸菌以外の形質転換菌のみで機能する発現ベクターではない。
本発明の発現ベクターは、例えば、(1)大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAならびに嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットから本質的になり、且つ、当該形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない点に特徴を有するものである。
【0040】
本発明の発現ベクターが具有する、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットとしては、大腸菌以外の嫌気性微生物、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌またはクロストリジウム属細菌等の腸内細菌で機能し、形質転換菌以外の嫌気性微生物で機能しないプラスミド複製ユニットであればいかなるものでもよく、大腸菌以外の嫌気性微生物、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプラスミド複製ユニットが挙げられる。具体的には、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するOriV領域およびRepB遺伝子を含むpTB6 repユニット又はその一塩基変異多形を例示することができ、より具体的には、配列番号4の1796番目から3391番目の塩基配列で示されるDNA又はその一塩基変異多形を例示することができる。
【0041】
また、本発明の発現ベクターが具有する、蛋白質発現ユニットのプロモーター及びターミネーターとしては、嫌気性微生物、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌またはクロストリジウム属細菌等の腸内細菌で機能するプロモーター及びターミネーターであればいかなるものでもよく、例えば、嫌気性微生物で機能するヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーター、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌由来のヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーターDNA又はその一塩基変異多形を例示することができ、具体的には、それぞれ配列番号4の7番目から367番目および1676番目から1786番目の塩基配列で示されるDNA又はその一塩基変異多形を例示することができる。
【0042】
さらに、本発明の発現ベクターは、(3)選択マーカー活性遺伝子ユニットをさらに含んでよい。本発明の発現ベクターが具有する選択マーカー活性としては、本発明のプラスミドベクターで形質転換された嫌気性微生物を選別できるものであれば特に制限されず、例えば、スペクチノマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、ネオマイシン耐性、カナマイシン耐性などの薬剤耐性マーカーや、栄養要求性などが挙げられ、スペクチノマイシン耐性が好ましい。
【0043】
そして選択マーカー活性遺伝子ユニットとしては、例えば、スペクチノマイシン耐性活性を発揮する蛋白質をコードするDNAの一塩基変異体とそのプロモーター配列とを含むDNA、例えば、エンテロコッカス・フェカリス由来のスペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼをコードするDNA(以下、AAD9カセットという)又はその一塩基変異多形を例示することができ、具体的には、配列番号4の3398番目から4476番目の塩基配列で示されるDNA又はその一塩基変異多形を例示することができる。
なお、本発明で言う一塩基変異体とは、少なくとも1箇所の塩基が変異した一塩基変異多形(以下、SNPという)を意味し、1箇所のみでのSNPだけでなく、複数個所でのSNPを含む。
【0044】
本発明の発現ベクターが具有する蛋白質発現ユニットに組み込まれる遺伝子は、例えば、本発明の嫌気的疾患治療剤を悪性腫瘍治療剤として用いる場合は、抗腫瘍活性を有する蛋白質あるいは抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質等を発現する遺伝子であって、巨大サイズDNA(約10kb以上)や受容細胞に有毒となるDNAなど形質転換を阻害するDNAでなければ、いかなるものであってもよい。
【0045】
当該遺伝子が発現する抗腫瘍活性を有する蛋白質は、例えばサイトカインを含み、具体的なサイトカインとしては、例えば、インターフェロン(IFN)−α、β、γ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン(IL)−1α、1β、2、3、4、6、7、10、12、13、15、18、腫瘍壊死因子(TNF)−α、リンホトキシン(LT)−β、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、白血病阻止因子(LIF)、T細胞活性化共刺激因子B7(CD80)及びB7−2(CD86)、キット・リガンド、オンコスタチンM等が挙げられる。また、エンドスタチン、アンジオスタチン、クリングル−1、2、3、4、5等の血管新生抑制物質も挙げられる。
これらの蛋白質の配列は様々な生物において知られており、その配列情報に基づいてPCR法等の公知の手法を利用することにより、本発明に用いる抗腫瘍活性を有する蛋白質をコードするDNAを入手することができる。
【0046】
また、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質としては、5−フルオロシトシン(以下、5−FCという)を抗腫瘍活性物質の5−フルオロウラシル(以下、5−FUという)に変換する酵素のシトシン・デアミナーゼ(以下、CDという)や、5−アジリジノ−2,4−ジニトロベンズアミド(以下、CB1945という)を抗腫瘍活性アルキル化剤に変換する酵素のニトロリダクターゼや、ガンシクロビルを抗腫瘍活性代謝物に変換する酵素の単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(以下、HSV1−TKという)や、グルクロン酸抱合抗腫瘍活性物質を抗腫瘍活性物質に変換する酵素のβ−グルクロニダーゼなどを挙げることができる。好ましくは、5−FCを5−FUに変換する酵素のCDを挙げることができる。
【0047】
CDをコードするDNAは、例えば、大腸菌由来のCDをコードするDNAを含有するプラスミドpAdex 1 CSCD(理化学研究所 ジーンバンク RDB No.1591)、又は同じく大腸菌由来のCDをコードするDNAを含有するプラスミドpMK116から単離されるものであってよい(D.A.Mead et al.,Protein Engineering 1:67-74(1986))。
大腸菌由来のCDをコードするDNAとしては、例えば、配列番号4の395番目から1675番目の塩基配列で示されるDNA又はその一塩基変異多形を例示することができる。
【0048】
さらに、本発明の嫌気的疾患治療剤を虚血性疾患治療剤として用いる場合は、本発明の発現ベクターが具有する蛋白質発現ユニットに組み込まれる遺伝子として、虚血性疾患治療に有用な血管新生促進活性を有する蛋白質も挙げることができる。具体的には、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、内皮細胞増殖因子(ECGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)などを挙げることができる。
同様に、これらの蛋白質の配列は様々な生物において知られており、その配列情報に基づいてPCR法等の公知の手法を利用することにより、本発明に用いる血管新生促進活性を有する蛋白質をコードするDNAを入手することができる。
【0049】
本発明のベクターは、例えば、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAおよび嫌気性微生物で機能するプロモーター並びにターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットと、選択マーカー活性遺伝子ユニットからなり、嫌気性微生物に形質転換した場合にその嫌気性微生物内において機能するもので、形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まないプラスミドであればいかなるものも含まれる。
【0050】
例えば、上記文献に報告されている、シャトルプラスミドpBLES100(特許文献4)、pAV001(特許文献5)、pBRASTA101(Tanaka et al., 2005, Biosci. Biotechnol. Biochem., 69(2): 422-425)、pDG7、pEBM3、pECM2、pLP825など(非特許文献5)に、目的とする活性を有する任意の蛋白質をコードするDNAならびに嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットを組み込み、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去したものなどを挙げることができる。
【0051】
あるいは、pNTR500F、pCD540FTなど(特許文献1〜3)、pBLES100−S−eCD(特許文献4)、pAV001−HU−e−CD(特許文献5)pAV001−HU−eCD−M968(特許文献6)など若しくは、当該プラスミドに組み込まれた蛋白質発現ユニットを、別の、任意の蛋白質発現ユニットに組換え、さらに、それから大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去したものなどを挙げることができる。
【0052】
本発明の発現ベクターの具体的な例示として、例えば、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットとして、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するOriV領域およびRepB遺伝子を含むpTB6 repユニットを具有し、嫌気性微生物で機能するプロモーター並びにターミネーターを含むDNA断片として、ビフィドバクテリウム属細菌由来のヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーターを具有し、目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAとして、5−FCを5−FUに変換する酵素のCDをコードするDNAを具有し、選択マーカー活性遺伝子ユニットとして、エンテロコッカス・フェカリス由来のスペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼをコードするDNA(AAD9カセット)を含むベクターを挙げることができる。
より具体的な例示として、例えば、配列番号4の塩基配列で示される、pBifiCDを挙げることができる。
【0053】
本発明のベクターは、例えば、以下のようにして作製することができる。
例えば、
(1)大腸菌の複製開始点、例えばpUC oriと選択マーカー活性遺伝子ユニット、例えば、AAD9カセットを含むプラスミド(以下、選択マーカープラスミドという)を作製(以下、工程1という)し、
(2)この選択マーカープラスミドの直鎖化プラスミドを調製し、これと、プロモーター及びターミネーター、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌由来のヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーターと、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質、例えば、CDを含む断片(以下、蛋白質発現ユニットという)をライゲーションして、選択マーカー活性遺伝子ユニットと蛋白質発現ユニットを有するプラスミド(以下、選択マーカー・活性蛋白質プラスミドという)を作製(以下、工程2という)し、
【0054】
(3)この選択マーカー・活性蛋白質プラスミドの直鎖化プラスミドを調製し、これと、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニット、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するOriV領域およびRepB遺伝子を含むpTB6 repユニットのDNA断片(以下、プラスミド複製ユニットという)をライゲーションして、大腸菌の複製開始点及び選択マーカー活性遺伝子ユニット、蛋白質発現ユニット並びにプラスミド複製ユニットを有するプラスミド(以下、シャトルプラスミドという)を作製(以下、工程3という)し、
(4)このシャトルプラスミドから大腸菌の複製開始点を除去(以下、工程4という)することにより作製することができる。
なお、各工程における操作は、文献記載の公知の方法に準じて行うことができる。
【0055】
ベクターはまた、上記の各種シャトルプラスミド、例えば、シャトルプラスミドpBLES100(特許文献4)、pAV001(特許文献5)、pBRASTA101(Tanaka et al., 2005, Biosci. Biotechnol. Biochem., 69(2): 422-425)、pDG7、pEBM3、pECM2、pLP825など(非特許文献5)、pNTR500F、pCD540FTなど(特許文献1〜3)に、常法に従って、目的とする活性を有する任意の蛋白質をコードするDNAならびに該嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットを組み込み、次いで、同様に、常法により、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去する事により作製することもできる。
【0056】
さらに、プラスミドpAV001−HU−eCD−M968(特許文献6)から、大腸菌の複製開始点を含む断片のpUC oriを取り除いた、上記本発明のプラスミドpBifiCDと同様に、本発明のベクターはまた、プラスミドpNTR500F、同pCD540FT(特許文献1〜3)、同pBLES100−S−eCD(特許文献4)、pAV001−HU−eCD(特許文献5)などから、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去する事によっても作製することができる。
【0057】
さらにまた、プラスミドpNTR500F、pCD540FT(特許文献1〜3)、pBLES100−S−eCD(特許文献4)、pAV001−HU−eCD(特許文献5)、pAV001−HU−eCD−M968(特許文献6)などから、当該プラスミドに組み込まれた蛋白質発現ユニットを、別の、任意の蛋白質発現ユニットに組換え、さらに、それから大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去する事によっても作製することができる。
【0058】
本発明の嫌気的疾患治療用遺伝子輸送担体は、形質転換する任意の嫌気性微生物を、上記本発明の発現ベクターを用いて、遺伝子工学分野の公知の方法にしたがって形質転換する事により作製することができる。
本発明の発現ベクターで形質転換された嫌気性微生物は、固形腫瘍等の嫌気的疾患の治療剤に用いるものであるから、当該嫌気性微生物としては、偏性嫌気性で且つ非病原性であることが必須であり、クロストリジウムやサルモネラなどの病原性の菌であっても非病原性化したものであればよく、また、ラクトバチルスなどの通性嫌気性菌であっても偏性嫌気性に変異化したものであればよい。
好ましくは非病原性の嫌気性バクテリアが挙げられ、より好ましくは非病原性の腸内細菌が挙げられ、中でも、ビフィドバクテリウム属細菌が最も好ましい。
【0059】
ビフィドバクテリウム属細菌としては、例えばビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガムが挙げられ、ビフィドバクテリウム・ロンガムが最も好ましい。
これらの菌は、いずれも市販されているか、又は寄託機関から容易に入手することができる。例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC−15707、ビフィドバクテリウム・ビフィダムATCC−11863、ビフィドバクテリウム・インファンティスATCC−15697等は、ATCC(The American Type Culture Collection )から容易に入手することができる。
【0060】
また、それぞれの菌の株についても特に限定されず、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガムの株については、ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A株、ビフィドバクテリウム・ロンガムaE−194b株、ビフィドバクテリウム・ロンガムbs−601株、ビフィドバクテリウム・ロンガムM101−2株を挙げることができ、中でもビフィドバクテリウム・ロンガム105−A株が好ましい。
ビフィドバクテリウム・ブレーベの株については、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ標準株(JCM1192)、ビフィドバクテリウム・ブレーベaS−1株、ビフィドバクテリウム・ブレーベI−53−8W株を挙げることができ、中でも、ビフィドバクテリウム・ブレーベ標準株、ビフィドバクテリウム・ブレーベaS−1株が好ましい。
【0061】
ビフィドバクテリウム・インファンティスの株については、例えば、ビフィドバクテリウム・インファンティス標準株(JCM1222)、ビフィドバクテリウム・インファンティスI−10−5株を挙げることができ、中でも、ビフィドバクテリウム・インファンティス標準株、ビフィドバクテリウム・インファンティスI−10−5株が好ましい。
また、ビフィドバクテリウム・ラクテンティスの株については、例えば、ビフィドバクテリウム・ラクテンティス標準株(JCM1220)を挙げることができる。
【0062】
本発明の遺伝子輸送担体は、本発明の発現ベクターで形質転換された上記の嫌気性微生物を含む遺伝子輸送担体であり、嫌気的環境下にある組織内で生育でき、且つ、目的とする活性を有する蛋白質を発現することができ、さらに、形質転換菌以外の、特に病原性又は好気性若しくは通性嫌気性微生物への水平伝達のおそれがほとんどまたは全くないものであれば特に制限されない。
【0063】
本発明の遺伝子輸送担体の好ましい例示としては、嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、且つ、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現することができる遺伝子輸送担体を挙げることができる。より好ましくは、嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、且つ、5−FCを5−FUに変換する酵素のCDを発現することができるビフィドバクテリウム属細菌を含む遺伝子輸送担体を挙げることができる。特に好ましい例としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(郵便番号292−0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に受託番号:NITE BP−491として2008年2月19日付で寄託された、pBifiCDで形質転換されたビフィドバクテリウム・ロンガム105−A株(ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A/pBifiCD;NPMD受領番号:NITE ABP−491)が挙げられる。
【0064】
本発明の遺伝子輸送担体の作製は、市販の実験書、例えば、遺伝子マニュアル(講談社)、高木康敬編遺伝子操作実験法(講談社)、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)(1982)、モレキュラー・クローニング第2版(Molecular C1oning,2nd ed.)コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)(1989)、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),194(1991)、等に記載された方法に従って行うことができる。
【0065】
本発明の医薬組成物は、本発明の遺伝子輸送担体を含有している限り特に制限はされない。また、本発明の嫌気的疾患治療剤は、本発明の遺伝子輸送担体を含有している限り特に制限はされない。
また、本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤は、本発明の遺伝子輸送担体の2種以上を含有していてもよい。
さらに、本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤は、本発明の遺伝子輸送担体以外の嫌気的疾患治療効果を示す化合物を含有する医薬組成物や嫌気性疾患治療剤と組み合わせて用いることができる。
【0066】
また、本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤は、本発明の効果を妨げない限り、本発明の遺伝子輸送担体のほかに任意の成分を含有していてもよい。そのような任意成分として、例えば、薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤等が挙げられる。
【0067】
本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤の剤型は特に制限されないが、例えば、本発明の遺伝子輸送担体を含有する液剤あるいは固形製剤を挙げることができる。液剤は、本発明の遺伝子輸送担体の嫌気性菌の培養液を精製し、これに必要に応じて適当な生理食塩液若しくは補液又は医薬添加物を加えてアンプル又はバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。また、固形製剤は、液剤に適当な保護剤を添加してアンプル又はバイアル瓶などに充填した後凍結乾燥又はL乾燥するか、液剤に適当な保護剤を添加して凍結乾燥又はL乾燥した後これをアンプル又はバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤の投与方法としては、経口投与、非経口投与共に可能であるが、非経口投与が好ましく、例えば静脈注射、皮下注射、局所注入、脳室内投与等を行うことができ、静脈注射が最も好ましい。
【0068】
本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤の遺伝子輸送担体の投与量は、疾患部位において生育でき、且つ、有効治療量の活性蛋白質を発現するのに十分な量である限り特に制限はされないが、経済上の観点及び副作用を可能な限り回避する観点から、必要な治療効果が得られる範囲においてできる限り少ない方が好ましい。
【0069】
本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤における遺伝子輸送担体の投与量は、疾患の程度、患者の体重、年齢、性別に応じて適宜選択し、改善の度合いに応じて適宜増減することができる。
例えば、本発明の嫌気的疾患治療剤を固形腫瘍治療剤として用いる際には、用いる嫌気性微生物の菌自体が示す抗腫瘍活性、用いる嫌気性微生物が産生する抗腫瘍活性を有する蛋白質の種類、抗腫瘍物質前駆体から変換される抗腫瘍物質の有効治療量、および用いる嫌気性微生物の当該活性蛋白質の産生量などによって、適宜設定する。
【0070】
具体的には、例えば静脈内投与の場合には、特に、菌塊による塞栓等のリスクを低減することが求められるため、できるだけ低濃度の注射用製剤を複数回に分けて分注するか、または適当な補液で希釈して持続注入することが好ましい。例えば、成人の場合、本発明の嫌気性微生物の菌体を、1日体重1kg当たり10〜1012cfuを1〜複数回に分け、1〜複数日間、連続してまたは適宜、間隔をおいて投与する。より具体的には、本発明の嫌気性微生物の菌体を10〜1010cfu/mL含有する製剤を、成人1人あたり1〜1000mLを直接、または適当な補液で希釈して、1日1回〜数回に分け、1日〜数日連続して投与する。
【0071】
また、疾患組織へ直接投与する局所投与の場合は、できるだけ疾患組織全体へ菌が生着、増殖することが求められるため、高濃度の注射剤を、疾患組織の複数個所に投与することが望ましい。例えば、成人の場合、本発明の嫌気性微生物の菌体を、体重1kg当たり10〜1012cfuを1日1回〜複数回、必要に応じ1日〜複数日間、連続してまたは適宜、間隔をおいて投与する。より具体的には、本発明の嫌気性微生物の菌体を10〜1010cfu/mL含有する製剤を、成人1人あたり1〜1000mLを直接、好ましくは1日1回〜数回、必要に応じ1〜数日連続して投与する。
治療期間中に疾患組織中の菌が消失していることが確認された場合は、一旦治療を中断し、上記と同様にして菌を投与する。
【0072】
本発明の遺伝子輸送担体や嫌気的疾患治療剤が、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現することができる遺伝子を組み込んだ嫌気性菌の場合、当該遺伝子輸送担体を活性成分として含有する本発明の医薬組成物や固形腫瘍治療剤は、当該遺伝子輸送担体によって発現される蛋白質によって有効量の抗腫瘍物質に変換できる量の抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて使用する。この抗腫瘍物質前駆体は本発明の遺伝子輸送担体を活性成分として含有する医薬組成物や固形腫瘍治療剤に含有させてもよいが、当該抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物として、本発明の遺伝子輸送担体を活性成分として含有する医薬組成物や固形腫瘍治療剤と組み合わせて用いることが好ましい。
【0073】
本発明に用いる抗腫瘍物質前駆体は、前駆体(プロドラッグ)の状態では正常組織に対する副作用が少なく、かつ、抗腫瘍物質に変換後は、治療の対象である各種固形腫瘍に対して高い治療効果を有する抗腫瘍物質前駆体であれば特に制限されないが、例えば前述の、5−FUのプロドラッグである5−FC、抗腫瘍活性アルキル化剤に変換されるCB1945、抗腫瘍活性代謝物に変換されるガンシクロビルやグルクロン酸抱合抗腫瘍活性物質等が挙げられる。
【0074】
このように、抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて本発明の医薬組成物や固形腫瘍治療剤を用いる場合、本発明の医薬組成物や固形腫瘍治療剤の投与方法と、抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物の投与方法は同じであっても異なっていてもよく、また、投与も同時であっても隔時であってもよいが、抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物の投与は、本発明の医薬組成物や固形腫瘍治療剤の投与後、本発明の遺伝子輸送担体が腫瘍細胞で十分生育できる時間をおいた後に投与する方が好ましい。
【0075】
また、抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて本発明の医薬組成物や固形腫瘍治療剤を用いる場合、遺伝子輸送担体が嫌気性環境下にある腫瘍細胞組織でのみ生着・増殖して、そこで局所的に活性蛋白質を産生するため、通常の抗腫瘍物質前駆体を用いる固形腫瘍の治療方法と比較して、副作用をはるかに低減することができ、かつ、抗腫瘍物質前駆体の投与量も広範に設定することができる。
【0076】
抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物の剤型は特に制限されず、通常の、散剤、錠剤、カプセル剤などの経口用剤および、座剤、注射剤などの非経口用剤のいずれであってもよい。このような医薬組成物は、通常の製剤学上の手法にしたがって製造することができる。
抗腫瘍物質前駆体の投与量は、組み合わせて使用する遺伝子輸送担体の腫瘍組織における生育率、及び抗腫瘍物質前駆体から抗腫瘍物質への変換効率に応じて適宜選択することができる。また、遺伝子輸送担体の投与量と同様に、疾患の程度、患者の体重、年齢、性別に応じて適宜選択し、改善の度合いに応じて適宜増減することもできる。
例えば、実際の治療では、用いる抗腫瘍物質前駆体および変換された抗腫瘍物質の種類、抗腫瘍物質前駆体から変換される抗腫瘍物質の有効治療量、用いる嫌気性微生物が産生する抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質の種類、ならびに用いる嫌気性微生物の当該活性蛋白質の産生量などによって、投与量を適宜設定する。
【0077】
具体的には、例えば、本発明の遺伝子輸送担体の、CD遺伝子を導入した、ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A/pBifiCD(NITE BP−491)を活性成分として含有する医薬組成物と抗腫瘍物質前駆体の5−FCを活性成分として含有する医薬組成物を組み合わせて投与する場合には、腫瘍組織中に菌が生着、増殖し、且つ、血液中および正常組織中において菌の消失が確認された後、5−FCを、成人の体重1kg当たり1〜100mg/日を1日1回〜複数回に分け、治療期間中連続して投与する。投与方法としては、経口投与が好ましいが、静脈内投与あるいは肛門内投与などの非経口投与を行うこともできる。
【0078】
なお、本発明における「XとYと組み合わせてなる」には、XとYを別の形態としたもの、XとYを同一の形態(例えばXとYを含有する形態)としたもののいずれの場合も含む。また、XとYを別の形態としたものの場合、X、Yのいずれも他の成分をさらに含有している場合も含まれる。
【0079】
本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤は、嫌気的環境下にある疾患、好ましくは各種固形癌に適用できる。固形癌としては、例えば大腸癌、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、膵島細胞癌、絨毛癌、結腸癌、腎細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、精巣癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、卵巣癌、子宮癌、絨毛癌、甲状腺癌、悪性カルチノイド腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、メラノーマ、扁平上皮癌などが挙げられる。
また、嫌気的環境下にある他の疾患としては、虚血性疾患、例えば、心筋梗塞または閉塞性動脈硬化症や、バージャー病などの下肢虚血疾患等を挙げることができる。
【実施例】
【0080】
以下、参考例及び実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[参考例1]
鋳型DNAの調製
各実施例において鋳型とする各プラスミドDNAは、0.1×TEを用いて、10pg/μLに濃度を調整し、使用時まで−30℃の冷凍庫にて冷凍保存した。鋳型とした各プラスミドDNAを以下の表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
[参考例2]
プライマーの調製
PCR増幅及び確認用に用いる各プライマーは、0.1×TEにて溶解し100μMのストック溶液を調製した。これを0.1×TEにて更にうすめ20μMのプライマー溶液を調製した。使用時まで−30℃の冷凍庫にて冷凍保存した。用いたプライマーを以下の表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
[参考例3]
アガロースゲル電気泳動
以下の各実施例における、アガロースゲル電気泳動は以下のように行った。
サンプルを必要に応じて0.1×TEにて10倍程度に希釈し、0.8%或いは2%分析用アガロースゲル、1×TBEバッファー(0.5μg/mLエチジウムブロマイド入り)を用いて電気泳動を行った。アガロースゲルの濃度は、サンプルDNAの大きさにより決定した。DNAの分子量マーカーを別レーンにて同時に電気泳動し、サンプルのDNAサイズを確認した。
また、サンプルの定量が必要な場合は、FastRular DNA Ladder, Low Range (Fermentas)やFastRular DNA Ladder, Middle Range (Fermentas)などの定量マーカーを用いた。定量マーカーの各バンド量は5ngから50ng程度とした。
電気泳動後、ゲルにUVを照射し、定量マーカーとサンプルとのDNA濃度を比較し、サンプルのDNA濃度を見積もった。
【0085】
[実施例1]
選択マーカープラスミド(pSPCM−pUCori)の作製(工程1)
以下の手順に従って、プラスミドpSPCM−pUCoriを作製した。
(1)pUCori断片の調製(約700bp)
pUCoriのPCR増幅の条件検討
pBluescript II SK+を鋳型に用いて、滅菌済み0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、10pg/μL pBluescript II SK+ 5μL、5×PrimeSTARTM buffer10μL、dNTP mixture(各2.5mM)4μL、20μM pUCori−F1プライマー0.5μL、20μM pUCori−R1プライマー0.5μL、PrimeSTARHSDNAポリメラーゼ0.5μL、および、滅菌精製水29.5μLを加え、PCR混合液を氷上にて調製した。
【0086】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せ、PCRを行った。
【数1】

PCR終了後の反応液を1μL及び3μL用いて、参考例3に示したアガロースゲル電気泳動により、PCR産物の確認を行った。なお、ゲルは2%分析用アガロースゲルを用いた。
アガロースゲル解析により目的の約700bpのシングルバンドの増幅が確認され、その収量は約1μgであった。
【0087】
追加PCR
上記で設定した条件にて5チューブ分の追加PCRを行い、合わせて約10μgのPCR産物を得た。
精製(タンパク質除去及び濃縮)
上記PCR反応液全てをまとめた後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製を行い、常法に従いプライマーおよびタンパク質を除去した。DNA溶出には0.1×TEを50μL用いた。
上記の精製PCR産物を0.1×TEにて10倍に希釈し、アガロースゲル電気泳動にて定量した。ゲルは2%分析用アガロースゲルを用いた。
【0088】
PCR産物の制限酵素処理
上記の精製PCR産物を制限酵素BcuI及びBglIIにて以下のように切断した。
精製PCR産物5μgに、10×Buffer O(酵素添付バッファー)を10μL、BglIIを55ユニット加え全量を0.1×TEにて100μLとした。37℃にて2時間保温後、参考例4記載の方法に従ってたんぱく質除去を行った。これに、10×Buffer Tango(酵素添付バッファー)を30μL、BcuIを255ユニット加え全量を0.1×TEにて300μLとした。37℃にて2時間保温後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen)にて精製を行い、50μLの0.1×TEにて溶出した。
【0089】
アガロースゲルによる分画と切り出し
上記制限酵素で切断後のPCR産物に1/10量の10×loading buffer(タカラバイオ株式会社)を加えよく混ぜ、電気泳動のサンプルとした。2%精製用アガロースゲルを1×TAEバッファー(0.5μg/mLエチジウムブロマイド入)を満たした電気泳動槽(Mupid,コスモバイオ)にセットし、上記電気泳動サンプルをアプライし、50Vにて低温室(4℃設定)で電気泳動を行った。分子量マーカー(FastRular DNA ladder, Low Range, Fermentas)を別レーンにて同時に流した。
DNAの移動度は、上記アガロースゲルにUVハンドモニター(UVP)にて365nmのUVを照射して確認した。電気泳動開始から130分後に、約700bpの目的のバンドが、ゲルの1/2程度の場所に到達した時に電気泳動を終了し、電気泳動槽からゲルを取り出した。
このゲルに365nmのUVを照射しながら目的のDNAバンドを滅菌したナイフの刃(Sterile Surgical Blades, RuettgersHmbH&Co.KG)にて切り出した。切り出したゲルを細かくスライスし、これを予め重量を測定した滅菌済みの2mLマイクロチューブに入れた。
【0090】
アガロースゲルからのDNA溶出
上記切り出しゲルを入れた2mLマイクロチューブの重量を量り、先に量った空チューブ重量を差し引いてゲル重量を算出した。QIAquick Gel Extraction Kitを用いて本キットの製品説明書に従いゲルからDNAを抽出した。最終工程のDNA溶出は、0.1×TEを50μL用いた。
上記の精製PCR産物の一部を、0.1×TEにて10倍に希釈し、精製したPCR産物を、分光光度計を用いて定量した。また、2%分析用アガロースゲルを用いてアガロースゲル電気泳動を行った。
上記PCR産物の制限酵素処理、アガロースゲルからのDNA断片切り出し、精製を行った後のDNA断片について、アガロースゲル解析で、シングルバンドであることを確認した。また、吸光光度計によるDNA測定により、濃度を測定した結果、濃度は66ng/μLであった。さらに、純度を示すA260/280比は1.911であった。
【0091】
(2)AAD9断片の調製(約1.1kbp)
AAD9遺伝子のPCR増幅の条件検討
pBLES100を鋳型に用いて、滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、10pg/μL pBLES100 5μL、5×PrimeSTARTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mM) 4μL、20μM AAD9−F1プライマー0.5μL、20μM AAD9−R1プライマー0.5μL、PrimeSTARHS DNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 29.5μLを加え、PCR混合液を氷上にて調製した。
【0092】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せ、PCRを行った。
【数2】

PCR終了後の反応液1μL 及び3μLを用いて、アガロースゲル電気泳動法により、PCR産物の確認を行った。ゲルは2%分析用アガロースゲルを用いた。
アガロースゲル解析により、目的の約1.1kbpのシングルバンドの増幅が確認された。また、収量は約1μgであった。
【0093】
追加PCR
上記と同様にしてチューブ5本分の追加PCRを行い、合わせて約10μgのPCR産物を得た。
精製(タンパク質除去及び濃縮)
上記、PCR反応液全てをまとめた後QIAquick PCR purification kitを用いて精製を行い、常法によりプライマー及びタンパク質を除去した。DNA溶出には0.1×TEを50μL用いた。
この精製PCR産物を、0.1×TEにて10倍に希釈し、これをアガロースゲル電気泳動法にて定量した。ゲルは2%分析用アガロースゲルを用いた。
【0094】
PCR産物の制限酵素処理
上記の精製PCR産物を制限酵素BcuI及びBglIIにて以下のように切断した。
精製PCR産物5μgに、10×Buffer O(酵素添付バッファー)を10μL、BglIIを36ユニット加え全量を0.1×TEにて100μLとした。37℃にて2時間保温後タンパク質除去を行った。これに、10×Buffer Tango(酵素添付バッファー)を30μL、BcuIを165ユニット加え全量を0.1×TEにて300μLとした。37℃にて2時間保温後QIAquick PCR purification kitにて精製を行い、50μLの0.1×TEにて溶出した。
【0095】
アガロースゲルによる分画と切り出し
上記制限酵素で切断したPCR産物を、上記、「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて130分間電気泳動を行って分画し、約1.1kbpの目的のバンドを切り出した。ただし、ゲルは0.8%精製用アガロースゲルを使用した。
【0096】
アガロースゲルからのDNA溶出
上記切り出しゲルを入れた2mLマイクロチューブの重量を量り、先に量った空チューブ重量を差し引いてゲル重量を算出した。QIAquick Gel Extraction kitを用いて本キットの製品説明書に従いゲルからDNAを抽出した。最終工程のDNA溶出は、0.1×TEを50μL用いた。
上記の精製PCR産物の一部を、0.1×TEにて10倍に希釈し、精製したPCR産物を、分光光度計を用いて定量した。また、2%分析用アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。
上記PCR産物の制限酵素処理、アガロースゲルからのDNA断片切り出し、精製を行った後のDNA断片について、アガロースゲル解析で、シングルバンドを確認した。また、吸光光度計によるDNA測定により濃度を測定した結果、その濃度は40ng/μLであった。さらに、純度を示すA260/280比は、1.927であった。
【0097】
(3)pUC ori断片とAAD 9断片のライゲーション
滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、pUCori精製断片(約700bp)とAAD9精製断片(約1.1kbp)をモル比で1:3、重量比では1:5となるように、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、pUCori断片(66ng/μL)0.75μL(50ng)、AAD9断片(40ng/μL)6.25μL(250ng)、5u/μL T4 DNAリガーゼ1μL、および0.1×TE 8μLを氷上にて加え混和し、ライゲーション反応液(反応液1)を調製した。
コントロールとして、AAD9精製断片のみの反応液(反応液2)を調製した。すなわち、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、AAD9断片(40ng/μL)6.25μL(250ng)、5u/μL T4 DNA理ガーゼ1μL、および0.1×TE 8.75μLを氷上にて加え混和し、ライゲーション反応液(反応液2)とした。
【0098】
AAD9断片は、プラスミドpBLES100(特許文献4:特開2002−97144)を鋳型として用いているので、僅かでも混入した場合、後の大腸菌の形質転換工程の後にバックグランドとしてコロニー形成をする。反応液2は、このバックグランド確認用のコントロールとした。
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が22℃に達した後に上記チューブを載せ、ライゲーションした。
【数3】

【0099】
(4)大腸菌の形質転換
上記ライゲーション反応後の溶液を1μL使用し、E.coli JM109の形質転換をヒートショックにより行った。形質転換の操作方法は、Takara E.coli JM109 Competent Cells(タカラバイオ株式会社)の製品説明書に記載の方法に従いった。形質転換後のSOC懸濁液は、原液及びSOCで10倍にうすめた希釈液の2種についてそれぞれ100μLずつ2枚のLB寒天培地(75μg/mL SPCM含有)に塗抹した。ライゲーション反応液1及び2を用いて形質転換した大腸菌の塗抹プレートをそれぞれプレート1及び2とした。これらのプレートを37℃に設定したインキュベータに入れ、1晩培養した。プレート上に形成されたコロニー数を計測した。
精製pUCori断片と精製AAD9断片のライゲーション産物(ライゲーション反応液1)を用いた形質転換では、10倍希釈菌液100μLあたり28個及び37個のコロニーが選択培地上に形成されたのに対し、コントロールの反応液2を用いた形質転換ではコロニーは形成されなかった。バックグランドが極めて低く、ライゲーション及び形質転換が良好に行われたことが示唆された。
【0100】
(5)プラスミドの確認
組換え大腸菌の培養
上記プレート1上のコロニーを無作為に6つ選び、これらを用いて培養を行った。2×LBを滅菌済みの100mL容ガラス製三角フラスコに20mL入れ、これに75mg/mLスペクチノマイシンを20μL加え、よく混ぜた。各コロニーを、白金耳にて釣菌し、上記の培地にそれぞれ懸濁した。これを37℃に設定した振とう培養機にセットし、37℃にて19.5時間振とう培養した。
【0101】
プラスミドDNAの抽出
上記各培養液を2mLの滅菌したマイクロチューブ2本に1.5mLずつ入れた。残りの培養液は、プラスミドの抽出が完了するまでの間氷中に置いた。上記の分注した培養液より、GeneEluteTM Plasmid Miniprep Kitを用いて同キットの製品説明書に従ってプラスミドDNAを抽出した。最終工程のプラスミドDNAの溶出は、50μLの0.1×TEを用いた。
【0102】
プラスミドDNAの濃度測定
上記で抽出したプラスミドを0.1×TEにて20倍にうすめ、分光光度計にてDNA濃度の測定及びA260/280比による品質確認を行った。
組換え大腸菌からのプラスミドDNA抽出を2回行った結果、DNAの純度を示すA260/280比は1.944から1.972であり、プラスミドDNAの純度は良好であった。また、収量は、2回の抽出物を合わせて、5μg以上であった。
【0103】
制限酵素による切断
プラスミドDNA100ngを用いて、BcuI単独での切断、BglII単独での切断及びBcuIとBglIIの両者での切断を行った。反応条件は、酵素の製品説明書に従った。反応容量は20μLとした。
6コロニー株の全てについて、BcuI及びBglIIの2種酵素による切断で約700bp及び約1.1kbpの2本のバンドが検出された。
また、BcuI或いはBglIIの単独酵素での切断では約1.8kbpの1本のバンドが検出された。これより、全株について、プラスミドサイズ、構成がデザインどおりになっている事が示唆された。
【0104】
プラスミドのDNA配列確認
上記制限酵素で切断したプラスミドDNA溶液20μLに10×loading buffer2μLを加えよく混ぜ、これを常法に従って電気泳動を行った。
上記電気泳動で抽出したプラスミドを用いて、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitにてシーケンス反応を行った。シーケンスプライマーは、下記、表3のプライマーセット1及び2を用いた。
シーケンスのアライメントは、解析ソフトGENETY(R)ATSQ(株式会社ゼネティックス)を使用した。アライメント後のプラスミド塩基配列をデザインした配列(配列番号1)と比較した。
6株のうち、4株のプラスミド配列はデザインした配列番号1と一致したが、のこり2株のプラスミドには、それぞれ塩基の置換及び欠失があった。
配列番号1と一致した4株の中から1株を選択して、この株より抽出したプラスミドを「pSPCM−pUCori」とした。
【0105】
【表3】

【0106】
[実施例2]
選択マーカー・活性蛋白質プラスミド(pHU−eCDm−SPCM−pUCori)の構築(工程2)
(1)直鎖化プラスミドpSPCM−pUCoriの調製
プラスミドの切断
pSPCM−pUCoriを制限酵素BcuI、XhoI及びBamHIにて以下のように切断した。XhoIによる切断は、切れ残りプラスミドによる形質転換時のバックグランドを抑える為に行った。
pSPCM−pUCori 5μgに、10×Buffer Tango(酵素添付バッファー)を25μL、BcuIを100ユニット加え全量を0.1×TEにて250μLとした。37℃にて2時間保温した後、その100ngを取り出し完全分解されたかどうかを、0.8%分析用アガロースゲルにて確認した。
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。切断確認後、酵素反応液よりタンパク質除去を行った。
【0107】
これに、10×バッファBamHI(酵素添付バッファー)を20μL、BamHIを80ユニット加え全量を0.1×TEにて200μLとした。37℃にて2時間保温した後、その100ngを取り出し、0.8%分析用アガロースゲルにてDNAの内部分解が起こっていない事を確認した。
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。切断確認後、酵素反応液よりタンパク質除去を行った。
これに10×Buffer R(酵素添付バッファー)を50μL、XhoIを400ユニット加え全量を0.1×TEにて500μLとした。37℃にて2時間保温した後、酵素反応液よりタンパク質除去を行った。
【0108】
アガロースゲルによる分画と切り出し
上記制限酵素で切断したベクターを、実施例1記載の、「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて75分間電気泳動を行ってDNAを分画し、約1.8kbpの目的バンドを切り出した。ただし、ゲルは0.8%精製用アガロースゲルを使用した。分子量マーカーは、FastRular DNA ladder, Middle Range(Fermentas)を用いた。
【0109】
アガロースゲルからのDNA溶出
実施例1記載の「アガロースゲルからのDNA溶出」と同様の方法にて上記切り出しゲルからDNAを溶出した。
上記のアガロースゲル精製を行ったベクターの一部を0.1×TEにて3倍に希釈し、分光光度計にて定量した。また、0.8%分析用アガロースゲルを用いて調製ベクターが約1.8kbpのシングルバンドであるか否かを確認した。
プラスミドpSPCM−pUCoriの制限酵素処理、アガロースゲルからのDNA断片切り出し、精製を行った後のDNA断片について、アガロースゲル解析を行い、約1.8kbpのシングルバンドを確認した。吸光光度計でのDNA測定では、濃度が21ng/μLであった。また、純度を示すA260/280比は、2.049であった。
【0110】
(2)インサート(HU−eCD断片)の調製
プラスミドpAV001−HU−eCD−M968(特許文献5:WO2007/136107)より、HU−eCD−M968(ビフィズス菌のHUタンパク質のN末端9アミノ酸と大腸菌由来のCDが融合した蛋白で、基質5−FCとの親和性を高める変異が導入されている)、HUプロモーター、HUターミネーターを含むDNA断片をPCRにて増幅した。
以下のように2段階のPCR(1stPCR及び2ndPCR)を行い、HU−eCD断片を調製した。
【0111】
1stPCR
PCR増幅の条件検討
2種類の断片(HU−eCD断片1及びHU−eCD断片2)のPCR増幅条件を検討した。
pAV001−HU−eCD−M968を鋳型に用いて、滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、10pg/mL pAV001−HU−eCD−M968 5μL、5×PrimeSTARTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mMh)4μL、20μM HUeCD F3プライマー0.5μL、20μM HUeCDinnerR1プライマー0.5μL、PrimeSTARHSDNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 29.5μLを加え、氷上にてPCR混合液(HU−eCD断片1)を調製した。同様にして、この混合液を3チューブ調製した。
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せ、PCRを行った。
【数4】

【0112】
同様にして、pAV001−HU−eCD−M968を鋳型に用いて、滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、10pg/mL pAV001−HU−eCD−M968 5μL、5×PrimeStarTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mM)4μL、20μM HUeCDinnerF1プライマー0.5μL、20μM HUeCD R1プライマー0.5μL、PrimeStarHSDNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 29.5μLを加え、氷上にてPCR混合液(HU−eCD断片2)を調製した。同様にして、この混合液を8チューブ調製した。
同様に、サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せ、PCRを行った。
【数5】

【0113】
PCR終了後、各反応液を1本のチューブにまとめた。
PCR終了後の反応液1μL及び3μLを用いてPCR産物の確認を行った。HU−eCD断片1及び2の確認には、それぞれ0.8%分析用アガロースゲル及び2%分析用アガロースゲルを用いた。
HUeCD断片1のPCR産物をアガロースゲル解析した結果、目的の約1.7kbpのシングルバンドの増幅を確認した。その収量は4.5μg以上であった。
また、HUeCD断片2のPCR産物のアガロースゲル解析では、目的の約150bpのシングルバンドの増幅が確認され、その収量は約8μgであった。
【0114】
PCR purification kitによる精製
上記のPCR産物を、QIAquick PCR purification kitの使用手順書に従って精製し、プライマーを除去した。精製の最終工程のDNA溶出には0.1×TEを50μL用いた。
PCR産物のアガロースゲルによる分画と切り出し
上記の精製PCR産物を、上記、「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて分画した。HU−eCD断片1は、0.8%精製用アガロースゲルにて65分間電気泳動を行い、約1.7kbpの目的バンドを切り出した。HU−eCD断片2では、2%精製用アガロースゲルにて65分間電気泳動を行い、約150bpの目的バンドを切り出した。
【0115】
アガロースゲルからのDNA溶出
上記、「アガロースゲルからのDNA溶出」と同様の方法にて上記切り出しゲルからDNAを溶出した。
精製PCR産物の定量
上記の精製PCR産物の一部を用いて、0.1×TEにて3倍に希釈し、これを分光光度計にて定量した。HU−eCD断片1及びHU−eCD断片2の濃度はともに47ng/μL、収量が約2.3μgであった。
【0116】
2ndPCR
PCR増幅の条件検討
上記のHU−eCD精製断片1及びHU−eCD精製断片2を鋳型に用いてこれらを連結させるPCR条件の検討を行った。
鋳型の調製
HU−eCD精製断片1(約1.7kbp)517ngとHU−eCD精製断片2(約150bp)47ngを混ぜ、0.1×TEにて1ng/μLの濃度に調整した。両断片のモル比は1:1となる。
プライマー混合液の調製
20μM HUeCD F3プライマーと20μM HUeCD R1プライマーを10μLずつ等量混ぜた。
【0117】
PCR混合液の調製
滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、1ng/μL Hu−eCD断片1および2ミックス1μL、5×PrimeStarTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mM)4μL、PrimeStarHSDNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 32.5μLを加え、氷上にて混合操作を行い、PCR反応液を調製した、同様にして、この反応液を3本調製した。
【0118】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せ、98℃で10秒、72℃で100秒のサイクルを5サイクル行った後に、72℃にて上記で調製したプライマー混合液を2μL添加混合し、サーマルサイクラーにて下記の反応を行った。反応終了後3本のPCRチューブ内の反応液を1本のチューブにまとめた。
【数6】

PCR終了後の反応液1μL及び3μLを、0.8%分析用アガロースゲル、1×TBEバッファー(0.5μg/mLエチジウムブロマイド)を用いて電気泳動を行った。
2ndPCR断片のアガロースゲル解析により目的の約1.8kbpのシングルバンドの増幅が確認された。その収量は約13μgであった。
【0119】
PCR purification kitによる精製
上記のPCR産物を、QIAquick PCR purification kitの使用手順書に従って精製を行いプライマーを除去した。精製最終工程のDNA溶出には0.1×TEを50μL用いた。
上記のプライマー除去したPCR産物の一部を0.1×TEにて50倍に希釈し、これを分光光度計により定量した。
【0120】
PCR産物の制限酵素処理
上記の精製PCR産物を制限酵素BcuI及びBamHIにて切断した。
精製PCR産物5μgに、10×Buffer Tango(酵素添付バッファー)を25μL、BcuIを100ユニット加え全量を0.1×TEにて250μLとした。37℃にて2時間保温した後、その100ngを取り出し、0.8%分析用アガロースゲルにて、DNAの内部分解が起こっていない事を確認した。
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。電気泳動による確認の後、この酵素反応溶液よりタンパク質除去を行った。
これに、10×バッファBamHI(酵素添付バッファー)を20μL、BamHIを80ユニット加え全量を0.1×TEにて200μLとした。37℃にて2時間保温した後、その100ngを取り出し、0.8%分析用アガロースゲルにてDNAの内部分解が起こっていない事を確認した。
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。電気泳動による確認の後、この酵素反応溶液をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
【0121】
アガロースゲルによる分画と切り出し
上記制限酵素で切断したPCR産物を、上記、「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて分画し、目的の約1.8kbpバンドを切り出した。ただし、ゲルは0.8%精製用アガロースゲルを使用し、電気泳動開始から75分後に、約1.8kbpの目的のバンドが、ゲルの1/3程度の場所に到達した時に電気泳動を終了した。DNA分子量マーカーには、FastRular DNA ladder, Middle Range(Fermentas)を用いた。
【0122】
アガロースゲルからのDNA溶出
上記、「アガロースゲルからのDNA溶出」と同様の方法にて上記切り出しゲルからDNAを溶出した。
上記のアガロースゲル精製を行ったPCR産物の一部を0.1×TEにて3倍に希釈し、分光光度計にて定量した。また、0.8%分析用アガロースゲルを用いて電気泳動による確認をした。
上記PCR産物の制限酵素処理及びアガロースゲル精製後、吸光光度計で測定した結果、DNA濃度は41ng/μLであった。また、純度を示すA260/280比は、1.932であった。さらに、アガロースゲルでの電気泳動解析でも約1.8kbpのシングルバンドが認められた。
【0123】
(3)直鎖化pSPCM−pUCoriとHU−eCD断片のライゲーション
以下のようにして、ライゲーション反応液(反応液1)およびコントロール反応液(反応液2および反応液3)を調製した。
反応液1
0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、直鎖化pSPCM−pUCori(約1.8kbp)とHU−eCD断片(約1.8kbp)をモル比で1:3(重量比でも1:3となる)になるように、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、pSPCM−pUCori(21ng/μL)2.4μL(50ng)、HU−eCD断片(41ng/μL)3.7μL(150ng)、5u/μL T4 DNAリガーゼ1μL、および0.1×TE 8.9μLを加え、氷上にて加え混和し、ライゲーション反応液(反応液1)を調製した。
【0124】
反応液2
同様に、0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、pSPCM−pUCori(21ng/μL)2.4μL(50ng)、5u/μL T4DNAリガーゼ1μL、および0.1×TE 12.6μLを加え、氷上にて加え混和し、pSPCM−pUCoriのみの反応液(反応液2)を調製した。
【0125】
反応液3
同様に、0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、HU−eCD断片(41ng/μL)3.7μL(150ng)、5u/μL T4 DNAリガーゼ1μL、および0.1×TE 11.3μLを加え、氷上にて加え混和し、HU−eCD断片のみの反応液(反応液3)を調製した。
【0126】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が22℃に達した後に上記チューブを載せた。
【数7】

なお、反応液2及び反応液3により、切れ残りプラスミドに由来するバックグランドの割合を見積もった。
【0127】
(4)大腸菌の形質転換
上記ライゲーション反応後の溶液を1μL使用し、E.coli JM109の形質転換を、実施例1記載の「大腸菌の形質転換」と同様の方法で行った。
ベクターとインサートのライゲーション産物(ライゲーション反応液1)を用いた形質転換では、10倍希釈菌液100μLあたり34個及び38個のコロニーが選択培地上に形成されたのに対し、ベクターのみをライゲーションしたコントロール反応液2及びインサートのみをライゲーションしたコントロール反応液3を用いた形質転換ではコロニーは0から1個であった。バックグランドが極めて低く、ライゲーション及び形質転換が良好に行われたことが示唆された。
【0128】
(5)プラスミドの確認
組換え大腸菌の培養
実施例1記載の「組換え大腸菌の培養」項に記載した方法に準じて行った。ただし、培養は20.5時間行った。
プラスミドDNAの抽出
実施例1記載の「プラスミドDNAの抽出」項に記載した方法に準じて行った。
【0129】
プラスミドDNAの濃度測定
実施例1記載の「プラスミドDNAの濃度測定」項に記載した方法に準じて行った。
クローニングした全6株の組換え大腸菌からの抽出DNAの濃度を測定した結果、DNAの純度を示すA260/280比は1.904から1.916であり、プラスミドDNAの純度は良好であった。また、収量は5μg以上であった。
制限酵素による切断
プラスミドDNA 100ngを用いて、BcuI単独での切断、BamHI単独での切断及びBcuIとBamHIの両者での切断を行った。反応条件は、酵素の製品説明書に従った。反応容量は20μLとした。
【0130】
アガロースゲル電気泳動
分析用アガロースゲルは0.8%を用いて、アガロースゲル電気泳動を行った。
クローニング株6つ全てについて、BcuI及びBamHIの2種酵素による切断で約1.8kbpの1本のバンドが検出された。また、BcuI或いはBamHIの単独酵素での切断では約3.6kbpの1本のバンドが検出された。これより、全クローニング株について、プラスミドサイズ、構成がデザインどおりになっている事が示唆された。
【0131】
プラスミドのDNA配列確認
上記で抽出のプラスミドを用いて、実施例1記載の「プラスミドのDNA配列確認」項と同様の方法にて配列決定を行った。プライマーには、実施例1記載の表3のプライマーセット1、2及び3を用いた。アライメント後のプラスミド塩基配列をデザインした配列(配列番号2)と比較した。
クローニング株全6株のプラスミド配列は、全て配列番号2と一致しており、全て目的の株が得られていることが確認された。全クローニング株の中から1株を選択し、この株より抽出したプラスミドを「pHU−eCDm−SPCM−pUCori」とした。
【0132】
[実施例3]
シャトルプラスミド(pCDshuttle)の作製(工程3)
(1)直鎖化プラスミドpHU−eCDm−SPCM−pUCoriの調製
プラスミドの切断
pHU−eCDm−SPCM−pUCoriを制限酵素BcuI、HindIII及びSalIにて以下のように切断した。HindIIIでの切断は、後の工程の形質転換時のバックグランドを抑える為に行った。
pHU−eCDm−SPCM−pUCori 5μgに、10×Buffer O(酵素添付バッファー)を10μL、SalIを34ユニット加え全量を0.1×TEにて100μLとした。37℃にて6時間保温した後、その50ngを取り出し完全分解されたかどうかを0.8%分析用アガロースゲルにて確認した。
【0133】
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。SalIでの切断を確認した後、この酵素反応液をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
これに、10×Buffer Tango(酵素添付バッファー)を20μL、BcuIを50ユニット加え全量を0.1×TEにて200μLとした。37℃にて2時間保温した後、タンパク質を除去した。
これに、10×Buffer R(酵素添付バッファー)を10μLm、HindIIIを29ユニット加え全量を0.1×TEにて100μLとした。37℃にて2時間保温した後、QIAquick PCR purification kitを用いてDNA溶液の精製及び濃縮を行った。
【0134】
アガロースゲルによる分画と切り出し
上記制限酵素で切断したベクターを、実施例1記載の「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて分画し、約3.6kbpの目的バンドを切り出した。ただし、0.8%精製用アガロースゲルを用いて、50Vにて90分間電気泳動を行った。分子量マーカーには、Quick-Load 1kbp DNA ladder(NEB)を用いた。
【0135】
アガロースゲルからのDNA溶出
実施例1記載の「アガロースゲルからのDNA溶出」と同様の方法にて上記切り出しゲルからDNAを溶出した。
上記のアガロースゲル精製を行ったベクターの一部を0.1×TEにて3倍に希釈し、分光光度計にて定量した。
プラスミドpHU−eCDm−SPCM−pUCoriの制限酵素処理、アガロースゲルでの精製後のDNA断片の吸光度を測定した結果、濃度は13ng/μLであった。また、純度を示すA260/280比は、1.961であった。
【0136】
(2)OriV−RepB遺伝子(インサート)の調製
PCRの鋳型に用いるpBLES100では、RepB遺伝子のORFのC末端領域と推定membB遺伝子のORFのN末端領域が重複している。membBのORFが翻訳されないよう、membBの推定されるリボゾーム結合領域及び翻訳開始コドンATGを別の塩基に変更した。ただし、その際にRepBのアミノ酸変更は伴わない設計とした。以下のように2段階のPCR(1stPCRおよび2ndPCR)を行い、OriV−RepB遺伝子を調製した。
【0137】
1stPCR
PCR増幅の条件検討
2種類の断片(OriV−RepB遺伝子1及びOriV−RepB遺伝子2)のPCR増幅条件を検討した。
OriV−RepB遺伝子1
pBLES100を鋳型に用いて、滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、10pg/mL pBLES100 5μL、5×PrimeStarTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mM)4μL、20 μM OriV−repouterF1プライマー0.5μL、20μM OriV−repinnerR1プライマー0.5μL、PrimeStarHSDNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 29.5μLを加え、PCR混合液を氷上にて調製した。同様にして、この混合液を3本調製した。
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せ、PCRを行った。
【数8】

【0138】
OriV−RepB遺伝子2
同様に、pBLES100を鋳型に用いて、滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、10pg/mL pBLES100 5μL、5×PrimeStarTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mM)4μL、20μM OriV−repinnerF1プライマー0.5μL、20μM OriV−repouterR1プライマー0.5μL、PrimeStarHSDNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 29.5μLを加え、PCR混合液を氷上にて調製した。同様にして、この混合液を3本調製した。
【0139】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せ、PCRを行った。
【数9】

PCR終了後の反応液各1μLを用いてPCR産物の確認および収量見積りを行った。ゲルは2%分析用アガロースゲルを用いた。
OriV−RepB遺伝子1のPCR産物をアガロースゲル解析した結果、目的の約1.3kbpのシングルバンドの増幅を確認した。その収量は約4.5μgであった。
また、OriV−RepB遺伝子2のPCR産物のアガロースゲル解析では、目的の約400bpのシングルバンドの増幅が確認され、その収量は約4.5μgであった。
【0140】
PCR purification kitによる精製
上記のPCR産物を、定法(QIAquick PCR purification kit使用手順書)に従って精製及び濃縮した。
PCR産物のアガロースゲルによる分画と切り出し
上記の精製、濃縮したPCR産物を、実施例1記載の「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて分画した。OriV−RepB遺伝子1では、0.8%精製用アガロースゲルにて80分間電気泳動を行った。目的の約1.3kbpのバンドがゲルの1/2程度のところに到達した時に電気泳動を終了した。分子量マーカーには、FastRular DNA ladder, Middle Rangeを用いた。一方OriV−RepB遺伝子2では、2%精製用アガロースゲルにて80分間電気泳動を行った。目的の約400bpのバンドがゲルの1/2程度のところに到達した時に電気泳動を終了した。分子量マーカーには、FastRular DNA ladder, Low Rangeを用いた。
【0141】
アガロースゲルからのDNA溶出
実施例1記載の「アガロースゲルからのDNA溶出」と同様の方法にて上記切り出しゲルからDNAを溶出した。
精製PCR産物の定量
上記の精製PCR産物の一部を0.1×TEにて4倍に希釈し、これを分光光度計にて定量した。
上記アガロースゲル精製後のPCR産物について、吸光光度計で測定を行った結果、OriV−RepB遺伝子1及びOriV−RepB遺伝子2の濃度はそれぞれ37ng/μL及び67ng/μLであった。
【0142】
2ndPCR
PCR増幅の条件検討
上記のOriV−RepB精製断片1及びOriV−RepB精製断片2を鋳型に用いてこれらを連結させるPCR条件の検討を行った。
鋳型の調製
OriV−RepB精製断片1(約1.3kbp)325ngとOriV−RepB精製断片2(約400bp)100ngを混ぜ、0.1×TEにて1ng/μLの濃度に調整した。OriV−RepB精製断片1とOriV−RepB精製断片2の混合比は、モル比で1:1になる。
【0143】
プライマー混合液の調製
20μM OriV−repouterF1プライマーと20μM OriV−repouterR1プライマーを等量混ぜた。
PCR混合液の調製
滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、1ng/μL OriV−RepB 1および2ミックス1μL、5×PrimeStarTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mM)4μL、PrimeStar DNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 32.5μLを加え、氷上にて混合操作を行い、反応液を調製した。同様にして、この混合液を3本調製した。
【0144】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せた。
98℃で10秒、72℃で70秒のサイクルを5サイクル行った後に、72℃にて上記で調製したプライマー混合液を2μLを添加混合し、サーマルサイクラーにて下記の反応を行った。
【数10】

PCR終了後の反応液0.5μL及び1μLを用いて、0.8%分析用アガロースゲル、1×TBEバッファー(0.5μg/mLエチジウムブロマイド)にて電気泳動を行った。
2ndPCR断片のアガロースゲル解析により目的の約1.6kbpのシングルバンドの増幅が確認された。その収量は6μg以上であった。
【0145】
PCR purification kitによる精製
上記のPCR産物を、QIAquick PCR purification kitの使用手順書に従い精製してプライマーを除去した。精製の最終工程のDNA溶出には0.1×TE 50μLを用いた。
上記のプライマー除去したPCR産物の一部を用いて0.1×TEにて20倍に希釈し、分光光度計にて定量した。
【0146】
PCR産物の制限酵素処理
上記の精製PCR産物を制限酵素BcuI及びSalIにて切断した。
精製PCR産物5μgに、10×Buffer O(酵素添付バッファー)を10μL、SalIを25ユニット加え全量を0.1×TEにて100μLとした。37℃にて6時間保温した後、その50ngを取り出し、0.8%分析用アガロースゲルにて、DNAの内部分解が起こっていない事を確認した。
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。電気泳動による確認後、QIAquick PCR purification kitを用いてDNAの精製を行った。
これに、10×Buffer Tango(酵素添付バッファー)を20μL、BcuIを110ユニット加え全量を0.1×TEにて200μLとした。37℃にて2時間保温した後、タンパク質の除去を行った。
【0147】
PCR産物のアガロースゲルによる分画と切り出し
上記制限酵素で切断したPCR産物を、実施例1記載の「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて分画し、目的の約1.6kbpバンドを切り出した。ただし、ゲルは0.8%精製用アガロースゲルを使用し、電気泳動開始から90分後に、約1.6kbpの目的のバンドが、ゲルの1/3程度の場所に到達した時に電気泳動を終了した。分子量マーカーには、Quick-Load 1kb DNA Ladder(NEB)を用いた。
【0148】
アガロースゲルからのDNA溶出
実施例1記載の「アガロースゲルからのDNA溶出」と同様の方法にて上記切り出しゲルからDNAを溶出した。
上記の精製PCR産物の一部を0.1×TEにて3倍に希釈し、分光光度計にて定量した。
上記制限酵素処理及びアガロースゲル精製後のPCR産物を吸光光度計で測定した結果、DNA濃度は16ng/μLであった。また、純度を示すA260/280比は、2.041であった。
【0149】
(3)直鎖化pHU−eCDm−SPCM−pUCoriとOriV−RepB遺伝子のライゲーション
以下のようにして、ライゲーション反応液(反応液1)およびコントロールの反応液(反応液2および反応液3)を調製した。
反応液1
滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、直鎖化pHU−eCDm−SPCM−pUCori(約3.6kbp)とOriV−RepB遺伝子(約1.6kbp)をモル比で1:3(重量比では1:1.3となる)になるように、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、pHU−eCDm−SPCM−pUCori(13ng/μL)3.8μL(50ng)、OriV−RepB断片(16.5ng/μL)3.9μL(65ng)、5u/μL T4 DNAリガーゼ1μL、および、0.1×TE 7.3μLを氷上にて加え混和し、ライゲーション反応液(反応液1)を調製した。
【0150】
反応液2
同様に、滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、pHU−eCDm−SPCM−pUCori(13ng/μL)3.8μL(50ng)、5u/μL T4 DNAリガーゼ1μL、および、0.1×TE 11.2μLを氷上にて加え混和し、pHU−eCDm−SPCM−pUCoriのみの反応液(反応液2)を調製した。
【0151】
反応液3
同様に、滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、OriV−RepB断片(16.5ng/μL) 3.9μL(65ng)、5u/μL T4 DNAリガーゼ1μL、および、0.1×TE 11.1μLを氷上にて加え混和し、OriV−RepB遺伝子のみの反応液(反応液3)を調製した。
【0152】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が22℃に達した後に上記チューブを載せた。
【数11】

反応液2により、切れ残りプラスミドに由来するバックグランドの割合を、反応液3により鋳型として用いたプラスミドDNAの持込によるバックグランドの割合を見積もった。
【0153】
(4)大腸菌の形質転換
上記ライゲーション反応後の溶液を1μL使用し、E.coli JM109の形質転換を、実施例1記載の「大腸菌の形質転換」と同様の方法で行った。
ベクターとインサートのライゲーション産物(ライゲーション反応液1)を用いた形質転換では、形質転換後の菌懸濁原液100μLあたり238個及び216個のコロニーが選択培地上に形成されたのに対し、ベクターのみをライゲーションしたコントロール反応液2ではコロニーは検出されず、インサートのみをライゲーションしたコントロール反応液3を用いた形質転換ではコロニー数は8個及び6個であった。バックグランドが極めて低く、ライゲーション及び形質転換が良好に行われたことを示した。
【0154】
(5)プラスミドの確認
組換え大腸菌の培養
実施例1記載の「組換え大腸菌の培養」項に記載した方法にて行った。ただし、培養は22.5時間行った。
プラスミドDNAの抽出
実施例1記載の「プラスミドDNAの抽出」項に記載した方法にて行った。
【0155】
プラスミドDNAの濃度測定
実施例1記載の「プラスミドDNAの濃度測定」項に記載した方法にて行った。
DNAの純度を示すA260/280比は1.951から1.958であり、プラスミドDNAの純度は良好であった。また、収量も10μg以上得られた。
制限酵素による切断
プラスミドDNA100ngを用いて、BcuI単独での切断、SalI単独での切断及びBcuIとSalIの両者での切断を行った。反応条件は、酵素の製品説明書に従った。反応容量は20μLとした。
【0156】
アガロースゲル電気泳動
実施例1記載の「アガロースゲル電気泳動」項に記載した方法にて行った。分析用アガロースゲルは0.8%を用いた。
候補株6つ全てについて、BcuI及びSalIの2種酵素による切断で約3.6kbp及び1.6kbpの2本のバンドが検出された。また、BcuI或いはSalIの単独酵素での切断では約5.2kbpの1本のバンドが検出された。これより、全候補株について、プラスミドサイズ及び構成がデザインどおりになっている事が示唆された。
【0157】
プラスミドのDNA配列確認
上記で抽出のプラスミドを用いて、実施例1記載の「プラスミドのDNA配列確認」項と同様の方法にて配列決定を行った。プライマーには、実施例1記載の表3のプライマーセット1、2、3及び4を用いた。アライメント後のプラスミド塩基配列をデザインした配列(配列番号3)と比較した。
クローニング株全6株のうち、4株のプラスミド配列は、配列番号3と一致しており、目的の株が得られていることが確認された。残り2株はpTB6 rep unit内に一塩基欠失が見られた。配列番号3と一致した4株のうち1株を選択し、この株より抽出したプラスミドを「pCDshuttle」とした。
【0158】
(6)ビフィズス菌の形質転換
コンピテントセルの調製
Bifidobacterium longum Re−105Aグリセリンストックを室温にて融解し、よくまぜた。滅菌したガラスの試験管にIMR調整培地を10mL入れ、これに融解菌液を100μL加えよく混ぜた。これを脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて24時間静置培養した(培養液1st)。
培養液1stをよく混ぜた後、その100μLを量り取り、IMR調整培地10mLの入った試験管に植菌し、これを脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて18時間静置培養した(培養液2nd)。
【0159】
50mL容の滅菌済みプラスティックチューブ(BD FalconTMチューブ、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)4本にIMR調整培地を各30mL分注した。これらのチューブを予め37℃のインキュベータにて温めておき、これに培養液2ndを各1.5mLずつ加えよく混ぜた。キャップを軽く閉め、脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて培養した。1時間35分経過後、濁度(波長600nm)0.213となった時に培養を終了し、培養液の入ったチューブを氷上に移した。これを、8000rpmで5分間4℃にて遠心分離した。クリーンベンチ内にて上清を捨て、菌体の入った各チューブに、予め氷中で冷やしたPBSバッファー各5mLを加え氷中にて穏やかに菌体を懸濁した。菌懸濁液の入ったチューブ4本を1本のチューブに纏め、これを8000rpmで5分間4℃にて遠心分離した。クリーンベンチ内で上清を捨て、菌体に予め氷中で冷やしたKMRバッファー360μLを加え再懸濁した。菌懸濁液は、約720μLとなった。これを氷上にて一晩静置し、コンピテントセルとした。この一部を等量のKMRバッファーにて2倍にうすめた菌懸濁液を調製し、これを2倍希釈コンピテントセルとした。
【0160】
形質転換
上記コンピテントセル80μLを予め氷冷した1.5mL容の滅菌済みマイクロチューブに入れた。これにpCDshuttleを578ng(1μL)加え、ピペッティングにて穏やかに混ぜた後氷上に5分間置いた。ポジティブコントロールとして、ビフィズス菌B.longum Re−105Aで複製する事が実証済みのpAV001−HU−eCD−M968を498ng(2μL)を上記と同様の手順にてコンピテントセルと混ぜた。同様に2倍希釈コンピテントセルとpCDshuttleを578ng(1μL)を混ぜた。予め氷冷したキュベット(BM cuvettes, BM Equipment Co., Ltd.)に、上記の各混合液をそれぞれ移した。この時、DNAを添加していないコンピテンとセルのみも別のキュベットに加えた(ネガティブコントロール)。
エレクトロポレーションシステム(ジーンパルサーII、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社)を用いて形質転換(エレクトロポレーション)を行った。エレクトロポレーターは、ボルテージを2.0kV、キャパシタを25μF、レジスタを200Ωに設定し、本システムの取扱い説明書に従って操作した。
【0161】
電気ショック後は、キュベットにIMR液体培地800μLとビタミンC添加液50μLの混合液を即時に加え、これを滅菌済みの2mLマイクロチューブに回収した。各チューブについて同様の操作を行い、これら2mLチューブの蓋を開けてデシケータに入れた。デシケータ内の空気を真空ポンプにて脱気したのち、炭酸ガスを封入した。この操作を3回繰り返してデシケータ内の空気を炭酸ガスに置換した後、デシケータを37℃に設定したインキュベータに入れ、3時間保温した。
保温後の各菌懸濁液をよく混ぜた後、その100μLを量り取り、IMR寒天培地(75μg/mL SPCMを含有)2枚にそれぞれ塗抹した。これらのプレートを脱酸素・炭酸ガス発生剤(アネロパック(R)・ケンキ、三菱ガス化学株式会社)とともに密閉容器に入れ、37℃に設定したインキュベータにて3日間培養した。
【0162】
コロニーの培養
pCDshuttleによる形質転換コロニーを無作為に6個選び、APS−2S−2.5R調整培地10mLの入った試験管にそれぞれ植菌した。コントロールとして、APS001Cマスター・セル・バンクグリセリンストック(2007.3.22製造、シリアル番号:004−0127)を室温にて融解し、その100μLを用いてAPS−2S−2.5R調整培地10mLの入った試験管に植菌した。これら植菌後の試験管を脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて24時間静置培養した(培養液1st)。
培養液1stをよく混ぜた後、その100μLを量り取り、APS−2S−2.5R調整培地10mLの入った試験管に植菌した。これらを脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて24時間静置培養した(培養液2nd)。
【0163】
プラスミド抽出
APS001Cを除く上記培養液1stを2mL用いて、QIAprep Spin Miniprep Kitにてプラスミド抽出及び精製を行った。詳細は本キットの製品手順書に従った。
【0164】
プラスミドの確認(PCR)
上記で抽出したプラスミドDNAを鋳型に用いてPCRを行い、プラスミドの有無を確認した。滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、プラスミドDNA 5μL、5×PrimeStarTMbuffer10μL、dNTPmixture(各2.5mM)4μL、20μMチェックF1プライマー0.5μL、20μMチェックR2プライマー0.5μL、PrimeStarHSDNApolymerase0.5μL、および、0.1×TE 29.5μLを加え、PCR混合液を氷上にて調製した。
ポジティブコントロールとして、大腸菌より抽出したプラスミドpCDshuttleを10pg/mLの濃度に調製した溶液を鋳型にしたPCR混合液も同様に調製した。
【0165】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が98℃に達した後に上記チューブを載せた。
【数12】

PCR終了後の反応液1μLを用いてPCR産物の確認行った。ゲルは0.8%分析用アガロースゲルを用いた。
【0166】
[実施例4]
プラスミド「pBifiCD」の構築 (工程4)
(1)pUC ori除去断片の調製
プラスミドの制限酵素による切断
pCDshuttleを制限酵素BglII及びBamHIにて以下のように切断した。
pCDshuttle 10μgに、10×バッファBamHI(酵素添付バッファー)を20μL、BamHIを69ユニット加え全量を0.1×TEにて200μLとしよく混ぜた。37℃にて3時間10分保温した後、その50 ngを取り出し完全分解されたかどうかを、0.8%分析用アガロースゲルにて確認した。
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。BamHIでの切断を確認した後、この酵素反応溶液よりタンパク質除去を行った。
【0167】
これに、10×Buffer O(酵素添付バッファー)を10μL、BglIIを45ユニット加え全量を0.1×TEにて100μLとしよく混ぜた。37℃にて2時間保温した後、その100ngを取り出し、0.8%分析用アガロースゲルにて完全分解されたかどうかを確認した。
酵素反応液の入ったチューブは確認を待つ間氷上にて保存した。
制限酵素で切断したプラスミドDNA溶液100ngに0.1×TEを加え全量を10μLとし、これに10×loading buffer1μLを加えよく混ぜる。これを電気泳動サンプルとする。ゲルは0.8%分析用アガロースゲルを用いた。
【0168】
アガロースゲルによる分画と切り出し
上記制限酵素で切断したベクターを、実施例1記載の「アガロースゲルによる分画と切り出し」と同様の方法にて120分間電気泳動を行い、約4.5kbpの目的のバンドが、約650bpの不要バンドと十分に分離した事を確認した上で、約4.5kbpのDNAバンドを切り出した。分子量マーカーには、Quick-Load 1kb DNA Ladderを用いた。
【0169】
アガロースゲルからのDNA溶出
実施例1記載の「アガロースゲルからのDNA溶出」と同様の方法にて上記切り出しゲルからDNAを溶出した。
上記のアガロースゲル精製を行ったベクターの一部を0.1×TEにて15倍に希釈し、分光光度計にて定量した。
制限酵素によるpCDshuttleの切断、アガロースゲルによる精製を行った後、吸光光度計で測定した結果、DNA濃度は47 ng/μLで、純度を示すA260/280比は、1.937であった。
【0170】
(2)精製したpUCori除去断片のセルフライゲーション
ライゲーション反応
精製したpUCori除去断片(約4.5kbp)のセルフライゲーションを行った。滅菌済みの0.2mL PCR用チューブ(Bio-BIK)に、5×Rapid Ligation Buffer 4μL、pUCori除去断片(47ng/μL)1μL(47ng)、5u/μL T4 DNAリガーゼ1μL、および、0.1×TE 14μLを氷上にて添加混和し、ライゲーション反応液を調製した。この反応液を20本調製した。
【0171】
サーマルサイクラーを以下の条件に設定し、ブロックの温度が22℃に達した後に上記チューブを載せた。
【数13】

【0172】
精製(タンパク質除去及び濃縮)
上記ライゲーション反応液20本を滅菌マイクロチューブ1本にまとめた後、タンパク質の除去を行った。ただし、DNAの溶解は、10μLの0.1×TEにて行った。
【0173】
(3)ビフィズス菌の形質転換
形質転換
Bifidobacterium longum Re−105Aコンピテントセルの形質転換(エレクトロポレーション)を、上記精製ライゲーション反応産物500ng(5μL)を用いて行った。バックグランドコントロールとしてライゲーション反応を行っていないpUCori除去断片500ng(10μL)も同様に別チューブにてコンピテントセルと混ぜた。エレクトロポレーション操作は、実施例3記載の「形質転換」と同様の方法にて行った。
【0174】
コロニーの培養
精製ライゲーション反応産物にて形質転換を行ったコロニーを無作為に8個選び、実施例3記載の「コロニーの培養」と同様の方法にて培養を行った。
プラスミド抽出
上記培養液1stを1.5mL用いて、実施例1記載の「プラスミドDNAの抽出」と同様の方法にてプラスミド抽出及び精製を行った。
【0175】
プラスミドの確認(PCR)
上記で抽出したプラスミドDNAを鋳型に用いて、実施例3記載の「プラスミドの確認」と同様の方法にてPCRを行った。
PCR終了後の反応液1μLを用いてPCR産物の確認を行った。ゲルは0.8%及び2%分析用アガロースゲルの2種類を用いた。
【0176】
(4)プラスミドの配列確認
培養
B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株のグリセリンストックを融解し、よく混和した後にその100μLを量り取り、APS−2S−2.5R調整培地10mLの入った試験管に植菌した。これら試験管を脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて24時間静置培養した(培養液1st)。培養液1stをよく混和した後にその100μLを量り取り、APS−2S−2.5R調整培地10mLの入った試験管2本にそれぞれ植菌した。これら試験管を脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて24時間静置培養した(培養液2nd)。
【0177】
プラスミド抽出
上記培養液2ndを適量用いて、QIAprep Spin Miniprep Kitにてプラスミド抽出及び精製を以下のように行った。
培養液2ndを2.5mLずつ4本の15mL容プラスティックチューブ(BD FalconTM、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に入れ、各チューブに30mM GTAバッファを7.5mL加えた。これを混ぜた後、12000rpmで15分間25℃にて遠心分離を行い、その上清をピペッティングにて捨てた。チューブ内の菌体に30mM GTAバッファを10mL加え混ぜた後、12000rpmで15分間25℃にて遠心分離を行い、その上清をピペットにて捨てた。菌体の入ったチューブ2本分を1本にまとめた後、これにN−アセチルムラミディス溶液(生化学工業株式会社製のN−アセチルムラミディス凍結乾燥品に、30mM GTAバッファを加え3000ユニット/mLに調製した)を1mLずつ加えよく混ぜた。このチューブを50℃に設定したウォーターバスにて3時間保温した後に、20mg/mLプロテイナーゼK(キアゲン株式会社)を250μL加えよく混ぜ、60℃に設定したウォーターバスにて30分間保温した。ここで2本のチューブを1本にまとめた。
【0178】
これに、等量のバッファP1(キット添付)を加え混和した(A)。この混和物を4本の15mL容プラスティックチューブに分け、これにAと等量のLysis溶液(0.2M NaOH/2%SDS)を加え転倒混和し、続いてAの1.4倍容量のバッファN3(キット添付)を加え転倒混和して、菌体の溶菌、ついで中和を行った。12000rpmにて15分間25℃にて遠心分離を行った後、その上清を15mL容プラスティックチューブに回収した。この回収液をQIAquick Spin Column(キット添付)8本を使用して精製した。精製方法は、同キットの手順書に従った。最終工程のDNA溶出は、50μLの0.1×TEにて行い、約400μLのプラスミド溶液を得た。
【0179】
プラスミドのDNA配列確認
上記で抽出したプラスミドを用いて、実施例1記載の「プラスミドのDNA配列確認」項と同様の方法にて配列決定を行った。プライマーには、実施例1記載の表3のプライマーセット1、3及び4を用いた。アライメント後のプラスミド塩基配列をデザインした配列(配列番号4)と比較した。
クローニング株より抽出したプラスミドの全長シーケンスを決定した結果、B.longum Re−105A/pBifiCDのプラスミド配列は、配列番号4と一致していた。このクローニング株より抽出したプラスミドを「pBifiCD」とした。
【0180】
[試験例1]
ビフィズス菌の形質転換及びその基本特性の確認
(1)B.longum Re−105Aの形質転換の確認
pCDshuttleよりpUCori部分を除去後閉環したセルフライゲーション産物及びpCDshuttleを用いたB.longum Re−105Aの形質転換結果を確認した。
プレート1から5は、同じコンピテントセルを使用した。プラスミドを加えていないネガティブコントロール(プレート番号1)ではコロニー数は1個及び0個であった。
しかし、ビフィズス菌中で複製される事が既に実証されているシャトルプラスミドpAV001−HU−eCD−M968(特許文献5;WO 2007−136107)を用いて形質転換したポジティブコントロール(プレート5)でもコロニー数が5個及び2個であり、ネガティブコントロールとの数の差が小さかった。この事より、プレート1から5に使用したコンピテントセルの形質転換の効率は低いと考えられた。
【0181】
一方、プレート6では、コンピテントセル濃度を2倍にうすめたものを使用しており、pCDshuttleにて形質転換を行った際に、プレート1枚あたり500個以上のコロニーが形成された。プレート6に対するネガティブコントロールを実施していないが、プレート6上のコロニーがプラスミドpCDshuttleにて形質転換されている可能性が高いと考えられた。また、コンピテントセルの濃度が形質転換効率に大きく寄与している事が分かった。
また、pCDshuttleよりpUCoriを除去した断片のライゲーションを行った場合と行わなかった場合で、それらでの形質転換結果(それぞれプレート3及び4)は、プレート3で3個及び8個、プレート4で1個及び2個とコロニー数が何れも少なかった。
結果を表4に示した。
【0182】
【表4】

【0183】
(2)B.longum Re−105A形質転換体のプラスミド確認
B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株8つ及びB.longum Re−105A/pCDshuttleクローニング株6つより抽出したプラスミドを鋳型に用いてチェックプライマーでのPCRを行った結果、B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株では約500bpの増幅産物が検出された。また、B.longum Re−105A/pCDshuttleクローニング株では、1.1kbpの増幅産物が検出された。これよりクローニング株全てがプラスミドを有している事を確認した。また、pBifiCDがpUCori断片を含んでいない事が示された。
【0184】
[試験例2]
シトシン・デアミナーゼ活性の確認
B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株8株及びB.longum Re−105A/pCDshuttleクローニング株6株を用いてシトシン・デアミナーゼ(CD)活性の確認を行った。
APS−2S−2.5R調製培地での培養液2nd各1mL用いて、トリスバッファ(pH8.4)で3回洗浄後、超音波破砕し総タンパク質を抽出した。Lowry法変法にて総タンパク質量を定量し、5μgの総タンパク質を用いて、5−フルオロシトシン(5−FC)を基質とした酵素反応を行った。酵素反応で生じた5−フルオロウラシル(5−FU)、残存の5−FC量を液体クロマトグラフィーにて定量し、CD酵素活性を算出した。
【0185】
B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株及びB.longum Re−105A/pCDshuttleクローニング株のCD活性を測定した結果、B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株8株のCD活性は8.07〜10.29(平均:8.74)ユニット/μg総タンパク質で、菌株による差は殆どなかった。
また、B.longum Re−105A/pCDshuttleクローニング株6株のCD活性は8.13〜9.66(平均:8.69)ユニット/μg総タンパク質で、同様に菌株による差は殆どなかった。
両クローニング株のCD活性はほぼ同等であるものの、平均値ではB.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株のCD活性が僅かながら強く、pUCori断片の除去によるCD活性の低下はなく、むしろ良好に作用していることが示唆された。
この試験により、pCDshuttle及びpBifiCDがビフィズス菌中で複製し、充分なCD活性を有する事が実証された。測定結果は、表5に示すとおりである。
【0186】
【表5】

【0187】
[試験例3]
プラスミド保持安定性の確認
スペクチノマイシン入りの培地での培養で充分に活性化した培養液を、スペクチノマイシン非添加の培地にて培養を行った際のプラスミド保持安定性を以下のように確認した。
【0188】
SPCM添加培地での選択培養
B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株2株のグリセリンストック及びB.longum Re−105A/pCDshuttleクローニング株1株のグリセリンストックを融解し、よく混和した後にその100μLを量り取り、APS−2S−2.5R調整培地10mLの入った試験管に植菌した。APS001C MCB(シリアル番号004−0116)についても同様の操作にて植菌した。これら試験管を脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて24時間静置培養した(培養液1st)。培養液1stをよく混和した後にその100μLを量り取り、APS−2S−2.5R調整培地10mLの入った試験管2本にそれぞれ植菌した。これら試験管を脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ、37℃にて24時間静置培養した(培養液2nd)。
【0189】
SPCM非添加培地での非選択培養
APS−2S−2.5R非選択調製培地の入った10mL試験管を予め37℃に設定した水浴中にて温めた後、クリーンベンチ内で、この培地に上記のSPCM添加培地での培養液2ndを10μLずつ植菌した(0.1%植菌)。植菌後の各試験管を脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器にいれ、37℃に設定したインキュベータに入れた。これら一連の操作は迅速に行い、培地の温度変化を出来るだけ少なくした。これら試験管を24時間培養した後、各培養液を接種菌液として同様の方法にてAPS−2S−2.5R非選択調製培地への継代を繰り返した。
APS−2S−2.5R非選択調整培地での3回目の継代培養液をよく振り混ぜた後、その100μLを量りとり、嫌気性希釈液9.9mLに加えよく混ぜた(10倍希釈液)。この10倍希釈液を同様の方法にて薄めて10倍希釈液、次いで10倍希釈液を調製した。この10倍希釈液を100μLずつBL寒天培地5枚に塗抹した。これらのプレートを脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器にいれ、37℃に設定したインキュベータにて2日間嫌気培養を行った。
【0190】
BL−bS寒天培地へのレプリカ
上記のBL寒天培地より、よく分離したコロニー300個を無作為に選別し使用した。滅菌した爪楊枝にてコロニーを釣菌し、BL−bS寒天培地、BL寒天培地の順に植菌した。これを各寒天培地1枚に対し50個、計6枚に植菌した。植菌後の寒天培地は密閉容器にその容積に応じた脱酸素・炭酸ガス発生剤と共に入れ嫌気状態にし、37℃で1日間培養した。
【0191】
培養終了後の計測は、爪楊枝による穿刺跡に明らかな菌の増殖が見られないものに印をつけ、それ以外の菌の増殖が見られたものをカウントした。プラスミドを保持する菌は、SPCM耐性であるので、プラスミド保持菌率は、SPCM耐性菌率として示される。プラスミド保持菌率を以下の式によって求めた。
【数14】

【0192】
プラスミド保持安定性を測定した結果、B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株#1及び#5のスペクチノマイシン耐性菌比率、すなわちプラスミド保持菌比率はともに87.7%で極めて高い値を示した。
また、B.longum Re−105A/pCDshuttleでは、プラスミド保持菌比率は80.3%であった。
一方、シャトルプラスミドpAV001−HU−eCD−M968で形質転換したB.longum Re−105A/pAV001−HU−eCD−M968(APS001C:特許文献6;WO 2007−136107)のプラスミド保持菌比率は71.7%であり、本発明のB.longum Re−105A/pBifiCDのプラスミド保持菌比率より大きく下回る結果であった。
【0193】
本発明のプラスミドpBifiCDは、ビフィズス菌B.longum Re−105A内で安定に保持され、本発明のプラスミドpBifiCDで形質転換したB.longum Re−105A/pBifiCDは極めて高いプラスミドの保持安定性を示すことが確認された。
また、両クローニング株共、B.longum Re−105A/pAV001−HU−eCD−M968に比べ、極めて良好なプラスミド保持菌比率を示し、しかも、B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株は、B.longum Re−105A/pCDshuttleクローニング株に比べプラスミド保持菌比率が高く、pUCori断片の除去により、プラスミド保持菌比率が向上していることが確認された。
測定結果を表6に示した。
【0194】
【表6】

【0195】
[試験例4]
プラスミド「pBifiCD」による大腸菌形質転換可否の確認
本願発明のプラスミド「pBifiCD」によって大腸菌が形質転換されない事を、シャトルプラスミド「pCDshuttle」を対照に用いて、以下のようにして確認した。
(1)プラスミドの調製
以下に示すようにして、本発明プラスミド「pBifiCD」及び対照プラスミド「pCDshuttle」を調製した。
【0196】
培養
実施例4で作製したプラスミド「pBifiCD」による形質転換ビフィズス菌(B.longum Re−105A/pBifiCD)をAPS−2S−2.5R調整培地に1%植菌し、脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ37℃て24時間培養した。これを良く混ぜた後、その1%をAPS−2S−2.5R調整培地に植菌し同様に24時間培養した。
同様に、実施例3で作製したシャトルプラスミド「pCDshuttle」による形質転換ビフィズス菌(B.longum Re−105A/pCDshuttle)をAPS−2S−2.5R調整培地に1%植菌し、脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れ37℃て24時間培養した。これを良く混ぜた後、その1%をAPS−2S−2.5R調整培地に植菌し同様に24時間培養した。
【0197】
プラスミド抽出
上記培養液各2mLを用いて、30mM GTAバッファー(pH5.5)にて2回洗浄し、Nアセチルムラミダーゼ処理次いでプロテイナーゼK処理を行なった。これをQIAprep Spin Miniprep Kitにて精製し、それぞれのプラスミドDNAを抽出した結果、それぞれ、約9μgのプラスミドDNAを得た。
【0198】
(2)大腸菌の形質転換
大腸菌JM109のコンピテントセル(タカラバイオ株式会社)(100μL)を上記で調製したプラスミド「pCDshuttle」及び「pBifiCD」を各50ng(1μL)用いて熱ショック法によりそれぞれ形質転換を行った。形質転換方法は、コンピテントセル付属の製品説明書に従った。
熱ショック次いでSOC培地添加保温後の菌懸濁液をLB寒天培地(75μg/mLスペクチノマイシンを含む)2枚に100μLずつ塗布後、37℃にて一晩培養した。
【0199】
培養後の各プレート上のコロニーの有無を確認した結果、対照プラスミド「pCDshuttle」を用いた大腸菌の形質転換でのみコロニーを検出した。
一方、プラスミドの代わりに0.1×TEを混ぜた陰性コントロール及び本発明のプラスミド「pBifiCD」では、形質転換後にコロニーが検出されなかった。
本発明のプラスミド「pBifiCD」は、例えプラスミドが強制的に大腸菌に導入されたとしても、大腸菌内で複製できない事が確認された。
結果は、表7に示すとおりである。
【0200】
【表7】

【0201】
[試験例5]
B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株の抗腫瘍効果の確認
(1)B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株培養生菌(被検薬)の調製
B.longum Re−105A/pBifiCDクローニング株のグリセリンストックを常温にて融解し、適量を、炭酸カルシウム添加液体培地を入れた試験管に植菌し、脱酸素・炭酸ガス発生剤とともに密閉容器に入れて、37℃インキュベータにて24時間嫌気培養して活性化培養を行った。次いでこの培養液適量を、炭酸カルシウム非添加液体培地を入れた試験管に植菌し、同様の嫌気条件下で18時間培養した(本培養)。
【0202】
培養液を50mL容のポリプロピレン製コニカルチューブ(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に移し混和し、この培養混合液5mLを4倍量(20mL)の冷却(5℃)生理食塩水に加え良く混和したものを3本調製した。 各チューブを8,000rpmで10分間冷却(4℃)遠心し、上清を除去した後、再度冷却生理食塩水20mLを加えて菌を懸濁することにより洗浄を行った(洗浄操作1)。この洗浄操作を更に2回行い、合計3回の洗浄を行った菌液を1本のチューブにまとめた後、懸濁菌液の容量を6.5mLに調製した。この洗浄菌懸濁液を8μmのメンブランフィルター(ポリカーボネート、東洋濾紙株式会社、K800A025A)でろ過し、回収したろ液(培養生菌液)の生菌を被験薬として使用した。
【0203】
(2) 移植腫瘍細胞の培養
ヒト乳癌細胞株のKPL−1細胞は、56℃で30分間非動化したFBS(10v/v%)及びペニシリン(50000 U/mL)・ストレプトマイシン(50mg/mL)を1v/v%添加したDMEM培地にて37℃、5%COの条件下で培養した。
コンフルエントとなった時点で1×PBS(−)で洗浄後1×トリプシン−EDTAを加えて細胞を剥がし、遠心操作(1000回転/5分間)で回収した細胞を、DMEM培地にて適宜希釈して継代培養した。
移植実験には5回継代後の細胞を用いた。トリパンブルーで染色されない生細胞数をThoma血球計算盤(Thoma deep 0.1 mm ERMA、東京)で計数し、ハンクス液に懸濁して細胞数を2.5×10個/mLに調製した。
【0204】
(3) 担癌ヌードマウスの作製と腫瘍体積の測定
調製したKPL−1細胞懸濁液0.2mLをヌードマウスの右前肢背部側の皮下に移植した(5×10個/マウス)。
移植後の腫瘍体積は、腫瘍径(長径、短径、厚み)をノギスで測定し、下式により求めた。
腫瘍体積(mm)=長径(mm)×短径(mm)×厚み(mm)/2
【0205】
(4) 群分けと培養生菌(被験薬)、糖源(ラクツロース)およびプロドラッグ(5−FC)の投与
群分けと培養生菌(被験薬)の投与
KPL−1担癌ヌードマウスの腫瘍体積が60〜95mm程度のマウス16匹を選別して、均等になるように2群(1群8匹)に分け、1群を対照群(無処置群)とし、もう1群を治療群とした。
治療群に、マウスあたり0.3mLの培養生菌(被験薬)を1日に3回(AM/PM)、2日間(day1〜2)静脈内投与した。
培養生菌は、総投与容量として1.8mL、総投与菌数として5.9×10cfu/マウスを投与した。
投与生菌数は以下のようにして測定した。
【0206】
生菌数測定
培養菌液を嫌気性希釈液で10倍に希釈し、その100μLをBLFSプレート各3枚に塗布し、密閉容器(アネロパック角型ジャー、三菱ガス化学)内に脱酸素・炭酸ガス発生剤と共に37℃の恒温器で3日間嫌気培養した。コロニー数が30〜300程度検出されるプレートから下式により投与菌数を算出した。
投与菌数(cfu)=コロニー数(a)×プレート塗布時の希釈率(b)×製剤1mL当たりの換算係数(c)×投与量(mL)
(a):(P1+P2+P3)/3〔3プレート(P1,P2,P3)の平均コロニー数〕
(b):×10〔10倍希釈〕
(c):×10〔1プレートあたり100μLを塗布〕
【0207】
ラクツロースの投与
治療群にはさらに、菌の糖源として、ラクツロース溶液を以下のように投与した。
20%(w/v)になるよう精製水で溶解し121℃で20分間高圧蒸気滅菌したラクツロース溶液1mLをマウス腹腔内に1日に1回投与した。
投与期間は培養生菌投与終了翌日から21日間(Day3〜23)とした。
【0208】
フルシトシン(5−FC)の投与
5−FC溶液0.4mLを、1日に3回(およそ9:00、14:00、18:00頃)マウスに経口投与した(総投与容量1.2mL)。
投与期間はAPS001F培養生菌投与終了翌日から21日間(Day3〜23)とした。
【0209】
(5)腫瘍増殖抑制効果の確認
全てのマウスについて、治療開始前(群別け時)および治療開始後24日間、3〜4日に1回の頻度で腫瘍径を測定し、腫瘍増殖に対する効果を確認した。
各群のマウスの腫瘍体積の平均値±SDを算出し、対照群に対する相対腫瘍体積比率〔T/C(%)〕を指標として抗腫瘍効果を判定した。
対照群及び治療群の腫瘍体積(平均値±SD)を以下の表8に示す。
またこの時の経日的な腫瘍体積の変動を図5に示す。
試験終了日(day24)での治療群の相対腫瘍体積比率〔T/C(%)〕は23.0%であり、顕著な腫瘍増殖抑制活性が認められた。
【0210】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明の課題は、形質転換菌のみで複製され、当該形質転換菌以外の菌、特に、病原性または好気性若しくは通性嫌気性の菌、例えば大腸菌では複製されない発現ベクターおよびその作製方法を提供することにある。また、本発明の課題は、該発現ベクターで形質転換された嫌気性微生物を含む遺伝子輸送担体、該遺伝子輸送担体を含有する医薬組成物、及び該形質転換菌を含有する固形腫瘍治療剤を提供することにある。
【0212】
本発明のベクターは、形質転換菌以外の菌、特に、大腸菌で機能する複製開始点を含まず、当該形質転換菌以外の菌、特に、病原性または好気性若しくは通性嫌気性の菌、例えば大腸菌で複製されるおそれがない、極めて安全なベクターである。そして、本発明のベクターを用いて形質転換した遺伝子輸送担体は、プラスミド保持安定性が高く、さらに、形質転換菌以外の菌、特に、病原性または好気性若しくは通性嫌気性の菌、例えば、大腸菌への水平伝達を起こしたとしても、当該菌で複製されるおそれがなく、従って、極めて安全で、高品質の遺伝子輸送担体として期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性微生物を形質転換するための、該嫌気性微生物において複製されるが大腸菌において複製されないプラスミドベクターであって、該嫌気性微生物において機能するが大腸菌において機能しないプラスミド複製ユニットを含む、前記プラスミドベクター。
【請求項2】
さらに、(1)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAならびに嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片からなる蛋白質発現ユニットを含む、請求項1に記載のプラスミドベクター。
【請求項3】
プラスミド複製ユニットが、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選ばれる1種で機能するプラスミド複製ユニットである、請求項2に記載のプラスミドベクター。
【請求項4】
プラスミド複製ユニットが、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプラスミド複製ユニットである、請求項3に記載のプラスミドベクター。
【請求項5】
ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプラスミド複製ユニットが、OriV領域およびRepB遺伝子からなるpTB6 repユニットである、請求項4に記載のプラスミドベクター。
【請求項6】
OriV領域およびRepB遺伝子からなるpTB6 repユニットをコードする遺伝子が、配列番号4の1796番目から3391番目の塩基配列で示されるDNAまたはその一塩基変異多形である、請求項5に記載のプラスミドベクター。
【請求項7】
目的とする活性を有する蛋白質が、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質、または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、請求項2に記載のプラスミドベクター。
【請求項8】
目的とする活性を有する蛋白質が、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、請求項7に記載のプラスミドベクター。
【請求項9】
抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼ、ニトロリダクターゼおよびβ−グルクロニダーゼからなる群より選ばれる一種である、請求項8に記載のプラスミドベクター。
【請求項10】
抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼである、請求項9に記載のプラスミドベクター。
【請求項11】
配列番号4の塩基配列で示されるDNA配列からなる、請求項10に記載のプラスミドベクター(pBifiCD)。
【請求項12】
嫌気性微生物を形質転換するための、該嫌気性微生物において複製されるが大腸菌において複製されない、該嫌気性微生物において機能するが大腸菌において機能しないプラスミド複製ユニットを含むプラスミドベクターの作製方法であって、(1)嫌気性微生物のプラスミド複製ユニットおよび大腸菌のプラスミド複製ユニットと、(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAならびに前記嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片からなる蛋白質発現ユニットと、(3)選択マーカー活性遺伝子ユニットとを含む、前記嫌気性微生物と大腸菌とで相互複製されるシャトルプラスミドを作製し、該シャトルプラスミドから、大腸菌のプラスミド複製ユニットを除去することを含む、前記プラスミドベクターの作製方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載のプラスミドベクターで形質転換された嫌気性微生物からなる、遺伝子輸送担体。
【請求項14】
嫌気性微生物が、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選ばれる1種である、請求項13に記載の遺伝子輸送担体。
【請求項15】
嫌気性微生物が、ビフィドバクテリウム属細菌である、請求項14に記載の遺伝子輸送担体。
【請求項16】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、およびビフィドバクテリウム・ロンガムからなる群より選ばれる1種である、請求項15に記載の遺伝子輸送担体。
【請求項17】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムである、請求項16に記載の遺伝子輸送担体。
【請求項18】
嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、かつ、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質、または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現することができる、請求項13に記載の遺伝子輸送担体。
【請求項19】
嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、かつ、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現することができる、請求項18に記載の遺伝子輸送担体。
【請求項20】
遺伝子輸送担体が、ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A/pBifiCD(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター受託番号:NITE BP−491)である、請求項19に記載の遺伝子輸送担体。
【請求項21】
請求項13〜20のいずれかに記載の遺伝子輸送担体を含有する、医薬組成物または固形腫瘍治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−517929(P2011−517929A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541633(P2010−541633)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/JP2009/001768
【国際公開番号】WO2009/128272
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(504434039)株式会社アネロファーマ・サイエンス (2)
【Fターム(参考)】